多面体F

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高齢者と仕事・・・人は何のために働くのか

2019年09月11日 | 日記
「定年後の生活」シリーズ第5弾として「高齢者と仕事」をテーマにする。
第3回「人とのつながり」のとき「高齢者でも働いている人はもちろんいるが、それは「高齢者の仕事」という項をつくってそちらで詳しく論じたい」と書いた。
このテーマを取り上げようとしたのには理由がある。3月に8年ぶりに中学3年のクラス会があり、9人参加した。そのなかで働いてないのはわたくしともう一人、長年親の介護をし見送って2年という人の2人だけしかおらず驚いたことだ。女性も1人いたが、新聞の集金の仕事を長くやっており、後任の人がなかなか見つからないので続けざるをえないとのことだった。働き方はそれぞれだ。もとの会社の関連会社の経営者もいれば、脱サラでコンサルタントをしている人、タクシー運転手をしている人、自営で商売をしている人、そして農業の人(養鶏と野菜栽培)が2人いて、彼らが精神的にもいちばん豊かそうにみえた。
もうひとつ、最初に入社した会社の同期会があり19人が参加した(全員男性)。そのうち常勤に近いかたちで働いている人7人、アルバイトやボランティアも含め、不定期で働いている人3人なのでやはり半数以上が働いていた。こちらはサラリーマン集団なので中学とは違い、7人が前職を生かした仕事、転職は2人だけ、家業を継いだ人は1人だけだった。
働いている人が、わたしが思った以上に多い。
たしかに統計データでみても、いまや60~64歳の63.6%、65~69歳の42.9%(男52.9%、女33.4%)、70~74歳の25.1%(男32.3%、女18.8%)が働いている時代総務省労働力調査(基本集計)2016年平均)である。
2年ほど前に大学のクラス会があったが、働いている人のほうが、働いていない人に比べ元気で生き生きしているのが明らかだった。
わたくし自身は原則として働いていないが、それでもシルバー人材センターと役所の調査員の仕事を年に数回やっている。たまたま今年7-8月はこの2つが重なった。

高齢になっても働く理由は人それぞれだし、働き方ももちろんそれぞれだ。
わかりやすいのは「生活のため」だ。男性で1961年4月生まれ以降(女性は66年生まれ以降)の60―65歳の人は年金がゼロなので働かざるをえない人は増える。多くは定年後再雇用だろうが、きっぱり定年退職する人もときどきいるし、家族の介護などで早期退職の道を選ぶ人もいる。
逆に日野原重明先生は105歳まで、P.F.ドラッカーは95歳で死の床につく間際まで仕事をした。彼らが生活費目当てで働いていたのでないことだけは確かである。
 まあ、こういうスーパーマンのような方と比較しても仕方がない。
生活のために収入が必要といっても、大きく分けると2種類ある。ひとつは狭義の生活費である。在職中と同じ生活レベルを維持したい、あるいは大きく下回りたくない、というものだ。もうひとつはせっかく退職したのだから、趣味(あるいはボランティア)で生きたいが、その費用が捻出できないので収入を、という人だ。趣味のサークルの月例会費はなんとか支払えるが、サークル終了後の飲み会の費用や、年に1-2回の合宿の費用が出てこないという人は多い。また趣味の世界なので、道具や個人レッスン、発表会などいろいろカネが出ていく機会は多い。

医師、弁護士、税理士など「士業」の人や「資格」を職業とする人、農業、個人事業主の人には定年はない。後継者問題など、独特の苦労もあるとは思うが、自分がやりたいと思うだけ、働き続けることができる。数は少ないが経営管理の仕事を続ける人もいる。これらは広い意味の「職人」だ。
職人という意味でいうと、その職務への社会のニーズがあるかどうか、また社会の変遷に付いていけているかどうか、という問題がある。わたくしは印刷関連の業界にいたので、タイプ印刷業、ワープロ入力業、トレース、エアブラッシング、製版フィルムのレタッチ作業などの名人芸がなかなか続かず消滅するのを目の当たりにした。
したがって、社会的ニーズや技術革新を脇目でチエックする必要があり、安穏としていられるわけではない。

この機会に、シルバー人材センターの同僚たちに話を聞いてみた。たまたま出会った10人のうち、60―65歳が2人、80代が2人、残りの7人が66-79歳という年齢分布である。
80代の1人は、75歳くらいまで働いていて、奥方が先にシルバーの会員になりシルバーの仕事をしていた。ところが奥方が体調を崩され、そのピンチヒッターとして、あわてて会員登録をして仕事を引き受けたとのことだ。つまり奥方のピンチヒッターとして始めたが、もう7年くらいになりベテランである。
もう一人は地方に長年住んでいたが、東京にいる息子夫婦に誘われ地方の戸建て住宅を処分し4年ほど前に東京のマンションに転入した。しかし友人たちをすべてなくしたようなものなので、仲間を見つけるためにシルバーに入会し、たしかに世間話をできる友人ができた、とのことだった。60代前半の2人は生活費を稼ぐためということだった。
シルバー人材センターは全国どの市町村にもある。定款にある「目的」はほぼ似たようなもののようだ。キーワードは「社会参加」「社会奉仕等の活動機会の確保」「生活感の充実」「地域社会との連携」「地域社会づくり」などだ。
わたくしの地域のシルバーの仕事のメインは、区役所の業務の下請けのようなもので、駐輪場の受付、公民館など区の施設の受付、リサイクルごみの受付、違法駐輪の見回りなどだ。民間からの受注業務では、掃除・洗濯・夕食作りなどの家事援助、マンションやオフィスビルの清掃・ゴミ出し、飲食店の配膳・皿洗いなどが多い。1-2時間の短時間の仕事が多いので時給は@1100-1500円だ。
少ない労働日数、フルタイムではない短時間作業という点で、シルバー人材センターの働き方は、今後の高齢者の仕事探しという点で可能性がある。ただし請負仕事をみんなでシェアする形式なので、発注主とのあいだに雇用関係が成立しない、したがって労働基準法が適用されない唯一の「労働」関係、とか指揮命令系統がないにもかかわらず、実質的なリーダーが指揮・管理せざるをえないなど、問題点も多い。

シルバー以外の知人にも、少し聞いてみた。一人は72歳、50代前半で早期退職し、以降旅行に行ったり、ダンスや水彩画をやったり悠々自適にみえる。生活費は年金のほか、血縁者からの遺産贈与や金融取引で成り立たせている。金融取引は趣味と実益を兼ね備えているようだ。それも各種情報収集と「勉強」の賜物のようだ。
もう一人は68歳で65歳まで定年後再雇用を勤め上げた。おそらく企業年金を含め生活費の心配はなさそうだ。しかし海外からの旅行者向けに月に何度かガイドをしている。やはり生活費のための仕事ではないようだ。
純粋に生活費のために働いている人は、思ったより少ない。
最後に、高齢者と仕事について、社会的な課題をいくつか挙げる。ただ専門書を読んで勉強にしたわけでもなく、現時点では、思いつきの羅列にすぎない。
少子高齢化社会で、日本の総人口はさらに減っていくのだから、今後ますます高齢者の就業機会は増えるし、増やさざるをえない。しかし肉体的にも精神的にも、現役のときとはわけが違う。もちろん人による個人差が大きいことが前提となるが、高齢者の仕事(労働)を保障する新たなシステムづくりは必要である。

いまは、普通の高齢者の仕事はほぼすべて肉体労働である。前職のノウハウを生かせる仕事、付加価値の高い仕事もあるはずなので、個人の生きがいにとっても社会的にもそうした仕事を斡旋し、マッチングできるような制度があるとよい。
現状のコネによる取引先会社の顧問就任などは、それに近いように思える。ただ公開性や公正性を担保できないという問題点が存在する。
一方、知合いの教員出身者で、いま働いている人はきわめて少ない。2人は予備校の教員、1人は全く別の業種の仕事を月に数回している。これもミスマッチのひとつだ。

●働きたくても働けない人はいる。わかりやすい例を出すと障がい者の人の場合である。昨年障がい者約20人に会う機会があった。身体障がいの方のなかには80歳前後ではじめて車イス生活になった人もいる。「車イス生活になったら、もう人生おしまい。とても働くことなどムリな話です」とおっしゃっていた。一方下肢の障がいがあるのに、80歳近くで清掃の仕事を続けている人もいた。障がい者生活に慣れていないと、悲観的な考えをもつ傾向にあることがわかった。それはムリもないと思った。
働きたくても働けない人もたしかにいるのだから、そういう方をサポートする制度は現行のままにしてほしい。さらに改善できる点があるならそうしてほしいものだ。

なお、最後はやはり「人はなぜ働くのか」という哲学的な問題に立ち戻る。社会参加、生きがい、平たい言葉でいえば「傍(はた)を楽にする」などいろんな答えがありうる。一方で、悠々自適の隠居生活も「夢」である。というのも日本の高齢者の就業率はアメリカより3%、イギリスより11%、フランスより19%も高いからだ「統計からみた我が国の高齢者(65 歳以上)」7pの2015年のデータ)
若いころは「自分は一生働く」と理念的に信じていた。ただそれは働く意義のある職業で、かつ自分の能力を生かせるということが前提にあったと思う。実際に60歳過ぎると、そういう職業生活ではなかったことに思いが及ぶ。そういうわけで、自分自身や他の人の体験もあわせて、この問題はもうしばらく考えてみたい。
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