多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

若手を育てるラ・フォル・ジュルネ2015

2015年05月14日 | コンサート
今年も5月2日から4日まで丸の内でラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンが開催された。わたしは最終日に行ってみた。今年のテーマは「パシオン」、サブタイトルには「恋と祈りといのちの音楽」とある。昨年までは、作曲家、時代、都市などをテーマとしていたのだが、どうやらネタが尽きたらしい。普遍的なテーマにしたとあるが、やはりわかりにくい。たとえばサックスのコンサートでMCが「サックスの曲はどれもパッションといえばパッションだ」と言っていたが、たしかにそのとおりである。来年以降は「自然」「ダンス」などへと展開するそうだ。

芝学園ギター部

まず芝学園ギター部のミニコンサートを聞いた。曲目はバッハのヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042より第1楽章とヒメネスのサルスエラ「ルイス・アロンソの結婚式」より間奏曲の2曲だった。バッハは子どものころ弾いたことがあるのでなじみの曲だった。学生指揮者がしっかりした指揮をしていた。

4Kシアター「炎の第九

次に時間調整のような形で小林研一郎指揮、日本フィルハーモニー、合唱・東京音大のベートーベンの「第9」の4K版の演奏を聞いた(2014年12月25日 サントリーホール ソプラノ・木下美穂子、アルト・手嶋眞佐子、テノール・錦織健、バリトン・青戸知)。
4Kなので小林のみならず、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエなどの楽団員、4人のソリストの表情もよくみえた。生演奏を見に行っても、こうはいかない。バリトンの青戸氏の七面相は楽しめた。
音のほうでは、合唱の重厚さや深みがもうひとつ再現されていないように感じた。小林研一郎の演奏はたしかに熱かった。

アンヌ・ケフェレックのマスタークラス
ケフェレックさんは1948年パリ生まれ、1968年ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝、ラ・フォルジュルネには何度も来日している。

写真はサイン会のときのもの
この日取り上げたのはショパンのバラード第4番、生徒役は上野学園の女子学生TMさんだった。まず1曲全体を通しで弾いたあと、先生が楽譜を取り上げ「暗譜で大丈夫でしょう」という。そのほうが「音をよく聞くから」との説明だった。生徒は驚いたのではないか。いくら弾きこんでいるといっても10分あまりの長さの曲だ。
レッスンのポイントは、1 低音をしっかり聞く、すると奥行が出てくるし右手までうまくなる、2 ショパンのポイントは音が混じらないようにすること、そのためペダルを踏みっぱなしにせず、踏み替えることが重要(「息を吸う」という表現をしていた)。
印象に残った表現としては「森の中を歩いていると、葉がこすれる音までよく聞こえる」「親指に色をのせる」「ささやくような、ふるえるようなパッション」「音が蒸発していくように、水鳥が飛び立っていくように、水が流れるようにスルスルッと」「マジカルに、幽霊のように戻ってくる」などなど。
大変熱心な授業で「走らない」「3拍子で」「デリケートに」「もっと向かっていく感じ」「ゆっくりしてはダメ、まだまだ終わりではない」「不安が迫ってくる」など指示が絶え間なく入る。とくにペダルについて「カクカク踏まない。足はバイブレーションのように」「音程を聞く。息を吸う。完全にペダルを上げる」など細かい指導があった。そのため1時間のレッスンが20分もオーバーした。主催者は冷や汗ものだっただろう。
わたしは開演5分前くらいに着いたので席は半分より後ろで、あまりピアノが見えなかった。この先生は指揮者のように腕を振ったり歌ったりされるのだが、まったくみえない。また生徒と大変自然に入れ替わって演奏されるのだがその様子もみえない。チケットは90分前配布なので110分前に行ったが、「開場は15分前」とのことなので20分前には並んだほうがよいようだ。

東京音大ピアノクインテット

曲はシューマンの「ピアノ五重奏曲」の1・4楽章。開演までしばらく練習していたが、ピアノ五重奏の場合、ピアノがリードするようだ。チェロの人はソリストタイプ、ビオラはひたすら伴奏に徹するタイプと、それぞれの個性がよくわかった。
同じ曲を5月半ばにアルゲリッチが川久保賜紀、遠藤真理らと演奏するそうだ。きっと迫力ある演奏になるだろう。

上野学園サクソフォン五重奏
 
昨年は楽器の発明者アドルフ・サックスの生誕200年だったそうだ。サックス・カルテット+ピアノの編成で、トルヴェール・クヮルテットのために長生淳が作曲した「惑星」より「地球」と佐橋俊彦作曲「With You」。司会はトルヴェールでアルト担当の彦坂眞一郎氏だった。「地球」には、ホルストの火星や木製はもちろん「吹奏楽のための第一組曲」まででてきて楽しかった。屋外だからかマイクを使った演奏だった。マイクのせいもあるかもしれないが、テナーとピアノがうまいように聞こえた。

プーランクのオペラ「人間の声演奏会形式 ソプラノ中村まゆ美、ピアノ大島義影
じつはこれだけがわたくしが聞いた有料コンサートだった。名前も知らない曲だったが、タワーレコードでチケットを買おうとしたら、「このプログラムしかもう残っていない」といわれ焦って買ったものだった。
舞台にはテーブルとイスと電話だけ、出演者は部屋着を着てひたすら電話をかけている。相手の声が聞こえるわけでもない。ときどき混線することもある。
失恋し、不眠で睡眠薬を大量に飲み、繰り言をいう。実際にこんな女がいたら、電話された相手はずいぶん迷惑だろう。最後は「ジュテーム」と言いながら電話のコードを首にまき、床に崩れ落ちる。死んだかどうかはわからない。もしかするとこの芝居すべてが女の妄想かもしれない。
ただ「パシオン」の表現であることは間違いない。台本はジャン・コクトーによる。演劇としてシナリオをみれば完成度が高い。
ネット検索をして、ジェシー・ノーマンの「人間の声」をみつけた。

ラ・フォルジュルネをみるのも3年目。だいぶ様子がわかってきた。マスタークラス、東京音大、上野学園の演奏にみるように、このイベントは若手音楽家の育成がメインで、その人たちに発表の場を与えることがひとつの使命のように思う。
また無料コンサートをみるときには、たとえばマスター・クラスで書いたように、待ち時間に留意することがポイントである。
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