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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

椎原治、荒木高子の兵庫県立美術館

2008年02月02日 | 博物館など
兵庫県立美術館は1994年から基本構想は検討されていたが、95年1月の阪神・淡路大震災後、復興計画のシンボルのひとつHAT神戸(川崎製鉄と神戸製鋼所の工場跡地を再開発)に安藤忠雄建築研究所の設計により2002年4月に開館した。裏手には海が見える。といっても対岸に人工島があるので、東京でいうと隅田川の川っぷちのような景色である。JR灘駅北西にある旧館(1970年オープン)は「原田の森ギャラリー」として使用されている。

近代日本の作家では本多錦吉郎、岸田劉生、小出楢重、前田寛治、戦後日本の作家では、芦屋で結成された「具体美術協会」の吉原治良、元永定正、白髪一雄、嶋本昭三、田中敦子らの作品や西脇市出身の横尾忠則の作品(340点!)を所蔵する。ヨーロッパの作家ではゴヤ、マネ、クリンガー、ピカソ、カンディンスキー、ウォーホル、ジャスパー・ジョーンズなどの版画のコレクションもある。また神戸出身の金山平三、小磯良平の記念室もある。
平常展(コレクション展3)では2人の作家の作品が印象に残った。椎原治(1905-1974)は戦前、大阪の丹平写真倶楽部で活躍した写真家である。第二次大戦でヨーロッパから日本に亡命したユダヤ人を撮った「流氓ユダヤ」(1941年)シリーズが15点展示されていた。北野の山本通りで撮影したシリーズだが、塀の中や窓の中の、あご髭をたくわえた典型的な中年男性や若くきれいな女性は憂いを含んでいるようにみえる。コントラストが深いモノクロ写真で、とても戦前の写真とは思えなかった。。
荒木高子(1921-2004) は西宮市生まれの陶芸家である。父は華道未生流の宗家。砂漠の砂で作ったような「砂の聖書」(1982)、岩に文字が張り付いた「岩の聖書」、表紙が焼け焦げたような「ポケットバイブル」(1989頃)はアイディアも卓抜だが、完成度が高かった。60代の作品だがとてもそうはみえない。1月16日に亡くなった片岡球子さんの葛飾北斎などエネルギッシュな「面構えシリーズ」も60代半ばの制作で、女性(というか芸術家)はすごい。

また明石生まれの伊藤隆康(1935-1985)の特集展示「絵画から環境へ」が開催されていた。
伊藤は明石生まれだが、10歳のときに戦災で沼津へ疎開、東京芸大卒業後58年東横百貨店宣伝部に勤務し店内ディスプレイを担当した。社会人2年目に行った個展でシェル美術賞を受賞、64年に退職し創作活動に専念した。
当初、抽象画やプラスチックを曲げシワのようにした作品をつくっていたが、61年「無限空間」という画面の外にはみ出すような半立体の石膏シリーズを作り始めた。その後アルミのオブジェやアクリルの「負の手」「負の球」といった光も使った立体に移り、70年代にはテクニクス・ギンザのシンボル、80年代には東京歯科大学のモニュメント、沼津市民文化センターのアルミレリーフといった空間環境へと広がった。しかし肝臓ガンのため50歳の若さで亡くなった。
伊藤の年譜の、63年に読売アンデパンダンに出品、69年ソニービルのエレクトロマジカ69に出品、70年大阪万博のテーマ館の企画・デザインに参加、74年池袋西武の基本プランニングを担当、という経歴からいかに芸術家が社会とともに道程をともにしたかがわかる。
伊藤は「私の仕事の商業施設の企画やデザインはこの数年、とくに商業軸だけでなく必ず文化軸を設定している。商業も文化の構造の一部分であるし(略)アトリエの中だけの仕事からほんものの芸術は生まれてこないはずである」(「商業空間」27号 1979年10月)と主張した。
絵画から環境へという特集展示のテーマは、もちろん60年代から80年代への時代のトレンドもあるが、デパートでディスプレイをやっていた体験も深く影響していると思った。

☆小説のほうでも糸山秋子「沖で待つ」や椎名誠のようにサラリーマン時代のエピソードを使った作品があるが、美術や演劇もそうなっていくのではないかと思った。

住所:  兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
電話:  078-262-0901
開館日:火曜日~日曜日
    (月曜日が祝日の場合は火曜日休館)
開館時間:10時~18時
入館料:大人 500円 (特別展は別途)
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