多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

もう風も吹かない

2013年11月30日 | 観劇など
青年団の「もう風も吹かない」を吉祥寺シアターで観た。
時は2025年。場所は青年海外協力隊の国内訓練所、隊員は2か月余りの合宿訓練の後、赴任国に2年間派遣される。平田オリザはかつて協力隊の制度改革の諮問委員を務めていた。そして当時の勤務先・桜美林大学演劇コース1期生の卒業公演のためにこの芝居を書き下ろした。

舞台は訓練所のロビー、右に図書館のテーブルのような大きい勉強机、左はソファーセット。2,3か所で同時多発的にセリフが交わされるが、こういう設定は青年団の芝居では普通である。右手には宿泊棟、正面奥には事務所や玄関、左には訓練棟につづく廊下が広がる。なぜかロビーは2,3段低い位置にある。斜面に建物が建っているという想定なのだろうか
登場人物は男女各6人の訓練生、副所長をはじめ5人の職員、そのほかこの日リタイアして実家に戻る元訓練生、賄いの女性職員、視察に来たJICAの職員2人、うち一人は元隊員、もう一人は外務省から出向中の女性。さらに訓練生の妹で海外協力の費用対効果の研究をしている大学生など、立場の違う人物が登場する。

この日は合宿最後の連休で多くの隊員は町に遊びに行っている。このロビーで、視力4.0、余興の歌の練習、最初希望した赴任国、ちくわ丼、などとりとめのない会話が続く。これもいつものとおりだ。訓練生は20-39歳と若いので、恋愛、規則違反の所内飲酒事件が持ち上がる。また日本の国力は衰え円は400円台に下落し、派遣もこの訓練生が最終で募集停止という暗い状況に置かれている。訓練生は「自分が本当に赴任国の役に立つのか」と不安を抱え、「僕には人は助けられない」と思い詰めて、退所する訓練生まで現れる。

だいたいはとりとめのない話だが、シビアなトピックスをいくつか含んでいる。
「1ドルが400円を超えたら、海外支援は完全に凍結するっていうのが、政府の方針だったからね。もう、先週末で430円くらいでしょう。こんなことしてたら、IMFからも支援してもらえなくなるからね。」(p22 以下セリフはすべて会場で販売していたシナリオより)
「君たちは、赴任先でも、厳しい視線にさらされることになると思います。正直言って、日本はずっと「継続した支援」とか言ってきたわけだからさ」
「減反を推進する一方で、日本政府の方は、他の国の米作り手伝ってさ、いまじゃ、ほとんど外米の輸入に頼ってんだからさ・・・こんなお人好しの国ないよ。」(p42)
「私、協力隊の費用対効果について研究してるんですね。ここ、はっきり言って、すごい豪華じゃないですか、施設とか。だから協力隊の成果とか言っても、それだけのお金をかけた価値があるかってことですよね、みなさんに。」(p55)
「どうして、そういう独裁の国に人行かせるんですか? そんなの、日本の税金で、どうして、そんな国助けるんですか?」
「完全な民主主義国じゃなきゃ援助しないなんて厳密に言ったら、途上国なんて、どこも援助できなくなっちゃうよ」(p74)
「(日本は)ポルトガルみたいに、東アジアの最貧国に転がり落ちていくってことでしょう。じゃあ、何、今回の派遣停止って、植民地からの撤退ってこと。」(p97)
ただ全体としてはもちろんユーモアたっぷりだ。こんな替え歌が振付入りで歌われた。
  「協力隊小唄」軍隊小唄の替歌)
いやじゃありませんか協力隊、ヤヤヤ、
援助ばっかりしていても かねの切れ目が何とやら、どこに行っても鼻つまみ
ホントにホントにホントにホントに、ご苦労さん
(p44)

  「ズンドコ節」海軍小唄の替歌)
万歳三唱で 手をにぎり 送ってくれた人よりも
成田のロビーで泣いていた 可愛いあの娘が忘られぬ
    ズンドコ ズンドコ
(p102)

  可愛いスーチャン
お国のためとは言いながら、人のいやがるバングラに 志願で出てくるバカもいる
可愛いスーチャンと泣き別れ 可愛いスーチャンと泣き別れ
(p29)

これらはいずれも軍歌や戦時歌謡のジャンルの曲である。
それもそのはず、賄の若い女性は「特攻隊を送り出す街の食堂の店員さんみたいな感じ。なんだか、そんな映画見たことありますよ。」(p72)と感慨を述べる。この映画は、おそらく石原慎太郎が知覧の鳥濱トメさんのことをを書いた「俺は、君のためにこそ死ににいく」のことである。

チラシの裏に「人間が人間を助けることの可能性と本質を探る青春群像劇」とあった。イスタンブールの安宿の日本人青年たちの喜怒哀楽の物語「冒険王」を思い出した。あのさわやかさは、しばらく青年団では見ていなかったような気がする。
エンディングは、ルワンダに赴任する俳句隊員の、アフリカの季語の羅列
「砂漠、井戸掘り、水汲み、洪水
タロイモ シマウマ フラミンゴ
 ・・・
希望 子どもたち、スコール、虹、夕焼け」で終わる。
さわやかなエンディングだった。2時間もかかる長い芝居だったが、ちっとも長いと感じなかった。

さて、この芝居の副所長役で志賀廣太郎が出演していた。
志賀は、たとえば2012年度下期の朝ドラ「純と愛」でオオサキプラザホテルの総支配人役を演じた役者だ。わたくしは「上野動物園再々々襲撃(2001年)以来のファンである。
この芝居では沖縄出身という経歴になっていて、
「まだ沖縄が日本に返還される前ね、初めて協力隊の派遣があったんだな。日本じゃなかったんだもん、琉球は。パスポートも違うし、それが、日本を代表して、他の国助けに行くんだからね。」(p87)
「一族でお祝いするわけだな、名誉なことだって、ねぇ、まだ沖縄は日本じゃないけど、日本のために、お国のために働けるって・・・」
「それが学校行ったらさ、先生が怒ってるわけ、何でウチナンチューが、大和のために働かなきゃいかんのかって、他の国助けてる暇あったら、沖縄を助けろってさ」、「協力隊員は沖縄の恥辱とまで行ったからね、先生が」(p88)
かなり厳しいセリフである。

終演後、たまたま観客と歓談されていたので、シナリオにサインしていただいた。わたくしがわざわざサインを求めるのは94年の「麗しのキメラ・嘆きのキメラ」以来のことだ。上の劇場の写真で、路上に立っている男性が志賀さんである。拡大すれば見えるかも・・・。

☆吉祥寺駅前ハモニカ横丁の「おふくろ屋台一丁目一番地」という店に立ち寄った。マイク・モラスキーの「呑めば、都」(筑摩書房 2012)で紹介されていた店だ。80歳近い女性がやっている「渋い」店だった。基本的には常連さん中心の店のようだった。
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