「はい。伯爵が仰るには、これはある特定の目的を達成するための唯一の方法なのだとのことでした。でもその目的が何なのかの説明はありませんでした……」
「そうですか」判事は口の中で呟いた。「なるほど、そうかもしれませんな……」
彼は頭を下げたので、マルグリット嬢は先を続けた。
「この大きな屋敷での生活はカンヌのときのと同じようなものでした……更にもっと引きこもりの度合いが強くなったぐらいで。伯爵はこの三年で随分老けられました。なにか謎の悲しみという重荷の下に喘いでおられるように見えました。『私はお前の青春を悲しいものにしているな』と一度伯爵は私に仰ったことがあります。『しかしそれもいつまでも続きはしない。辛抱してくれ、辛抱だ……』
伯爵は私を愛してくださったのでしょうか? ええ、そう思います。でもその愛情は奇妙で無秩序なものでした。ときにはその声音にはっきりと愛情が表れていることがあり、私は心を打たれました……。別の日にはその目に憎悪が宿り、私は怖くなりました。殆ど残酷なまでに私に対し厳しい態度を見せたかと思うと、次の瞬間には、悪かった、と詫びるのです。そして馬車の用意をさせ、私を宝石店に連れて行き、一番煌びやかな装飾品を選ばせるのでした。レオンが言うには、私の宝石は十万エキュ以上の価値があるとのことです。ときどき私は、伯爵のあの厳しさと甘やかしは本当に自分に向けられたものなのか、あるいは私は単なる偽りの影法師、不在の誰かのいわば亡霊にすぎないのではないかと疑わずにいられませんでした……。実際伯爵は私にこれこれの服を着て、これこれの髪型をしてくれないかと頼むことがしょっちゅうありました。ある色のドレスを着て、この香水をしてくれと香水瓶を渡されたり。私が彼の前を何度も行ったり来たり歩いてみせると、彼は叫んだものです。『マルグリット、お願いだから、じっとして動かないでくれ。そのまま……』 私が立ち止まると……幻想は消えるのです……やがてすすり泣く声が洩れ、あるいは罵り声が上がったりし、その後苛立った声が怒鳴るのです。『もういい、あっちへ行け!』と」
治安判事は視線を自分の指輪から離さなかった。まるでうっとりと魅惑されているかのように。彼の顔には深い同情が現れていた。時折彼は心配げに首を振ったりもした。この薄幸の少女が、全くの狂人とは言わないまでもかなりの偏執狂に取りつかれた男の犠牲になっていたという思いが彼の頭に浮かんだ。周囲の人間に苦痛を与えずにおかないような考えだけはかろうじて思いつくほどの理性しか残っていない偏執男の。5.13