エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2021-05-20 11:10:58 | 地獄の生活

 こう聞かされても、私は殆ど動じませんでした。じっくり考えて決心するための時間はまだありました。私は内気ですけれど、弱虫ではありません。ド・シャルース伯爵に抵抗する決意は固めていました。最悪の場合には彼のもとを去り、彼が優しい言葉で約束してくれていた彼の全財産を放棄する決心でした。私の胸の内の思い、熟考、断固たる決意などを私はパスカルには何も言いませんでした。私に結婚話が持ち上がっているということは、もし彼に垣間見せたにしても、ほんの少しだけでした。もし打ち明ければ彼が私に与えてくれるに違いない言質で彼を縛りたくなかったのです。私には彼の誓いの言葉だけで十分でした。ときどきこんな風に考えてみるとき、私は喜びで震えました。

『ド・シャルース伯爵は私の抵抗に業を煮やして、屋敷から私を追い出すかもしれないわ。そうなったって構わない。というより、そうなった方がどんなに嬉しいか……パスカルがいてくれるんだもの!』

でも抵抗するためにはまず攻撃されなければなりません。それなのにド・シャルース伯爵は私に何も言いませんでした。ヴァロルセイ侯爵との間でまだすべてが了解済みではなかったのかもしれませんし、私が油断しているときにびっくりさせて考える力を奪ってしまおうという計画だったのかもしれません。私の方から話を切り出すのはとてつもない浅慮だったでしょう。私は伯爵という人をよく知っていましたから、彼の意図を先読みすることなど出来ないと分かっていました。それで私は平静に、ではなくとも、少なくともある諦めの気持ちで待っていました。いざというときのために力を蓄えておこうとしていたのです。私は小説に出て来る女主人公とは違います。恥ずかしながら告白しますが、私はお金というものに対し、そうあるべき軽蔑を抱いてはおりません。結婚に際しては、自分の心が決める方と、と固く決心しておりましたが、私はその……シャルース伯爵が大金ではなく、ささやかな持参金を付けてくださることを願っていました……。5.20

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