でもこの決心を実行に移すには時間が必要でした。で、その間伯爵は私をパリに住まわせることにしたのです。人からあれこれ詮索されずに済む唯一の街であるパリに。それでリュクサンブールからさほど遠くないところに狭い前庭の付いた小さく快適な家を私のために買ってくれました。二人の年配の女中と信頼のおける召使一人を置き、私の監督をしてくれる付き添いの女の人が必要だからと、どこかから探し出してマダム・レオンを付けてくれました」
この名前を聞くと治安判事は顔を少し上げ、マルグリット嬢の顔を鋭い眼力で見渡した。彼女がこの女付添人のことをどう思っているのか、どの程度の信頼を与えているのか、それがはっきり掴めるかと期待したのだったが、彼女は無表情のままだった。
「運命は散々私を痛めつけた後で、一瞬その手を緩めたのだと思いましたわ」と彼女は言葉を続けていた。「ええ、そうなのです。なんと思いがけないことだったでしょう。私がその小さな家で過ごした数か月は私の人生で一番幸せなときでした。そもそも最初からそこは気に入っていました。一人になれましたし、平和なときが流れて……。でも息も止まるほどの驚きがそこに引っ越して二日目に訪れたのです。私の小さな庭に降り立ったとき、格子戸の向こうに立ち止まっていたのはカンヌで会ったあの若い男の人だったのです。あれから二年以上経っていましたが、その間ずっと私の心の中に最上の最も気高いものとして存在していたその人だったのです。私は眩暈のようなものを感じました。なんという神秘的な偶然が彼をそこに立ち止まらせたのでしょう、まさにその時間に? 確かなことは、私がその人が誰だか分かったように、向こうでも私のことがすぐ分かったということでした。彼は少し微笑んで私に挨拶をしました。私はその場から逃げ出しましたが、男の人に馴れ馴れしくされたというのにちっとも腹を立てない自分に腹を立てていました。その日、私はああもしよう、こうもしようと計画を一杯立てました。でも次の日、同じ時間に私は鎧戸の後ろに隠れていました。すると昨日と同じように彼が立ち止まり、明らかに不安そうな様子でこちらを眺めていたのです……。やがてすぐに彼がごく近くに住んでいること、未亡人の母親と二人暮らしであること、毎日裁判所への行き帰りに私の家の前を通ることを知りました……」
彼女は真っ赤になり、目を伏せ、語尾を濁した。それから急に、赤面したことを恥じるかのように、彼女は顔を上げ、きっぱりした口調で言った。
「こんな他愛もないことをお話して何になるでしょう?……何にもなりませんわね。二人の間のできごとは、母親にも隠さず言えることばかりです。もし私に母親がいたら、ですけれど。人目を忍ぶお喋り、何度かの手紙のやり取り、格子戸越しの握手……それだけです。でも、私は重大な過ちを犯していました。5.9