エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

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2021-05-27 09:56:13 | 地獄の生活

「なんでも便利屋のところへ。伯爵が破ってしまった手紙に書かれていた住所を見つけてくれる人だということです」

「で、その男の名前は?」

「フォルチュナとかいう人です」

判事はその名前を手帳に書き、質問を続けた。

「その手紙のことですが、ド・シャルース伯爵の死の原因となったと貴女が考えておられるこの手紙には何が書かれてありましたか?」

「私は知らないのです、判事様。確かに私は千切られた紙片を拾い集めるのを手伝いはしましたが、読んではいませんので」

「ふむ、それは大した問題ではありません。問題は、誰がその手紙を書いたかです。三十年前に失踪した伯爵の妹さんかもしれない、と貴女は仰いましたね。あるいは貴女のお母さまか……」

「はい。そのときもそう思いましたし、今でも同じ考えでございます」

老判事は微笑みながら、指輪をいじくり回した。

「それでは」彼は明言した。「五分以内に、その手紙が貴女のお母上から来たものかどうか、言ってさしあげましょう。ああ、やり方は至って簡単です。書き物机の中にしまわれている手紙の筆跡と直接較べてみるのですよ……」

マルグリット嬢は半分立ち上がりながら叫んだ。

「まぁ、なんて素晴らしい考えでしょう!」

しかし判事は彼女の驚きには気づかぬ風で、短く尋ねた。

「その手紙はどこです?」

「伯爵はポケットの中にお入れになった筈です」

「なら、まだそこにある筈ですな。伯爵の下男を呼んで探させてください」

マルグリット嬢は呼んだが、カジミール氏は主人の葬式の準備や何かで忙しいのか邸内にいなかった。それで二番目の下男とマダム・レオンが代わりにその仕事を買って出た。彼らは甲斐甲斐しく捜し回ったが、問題の手紙は出てこなかった。

「なんと上手く行かぬことか!」伯爵の服のすべてのポケットが裏返されるのを見ていた判事は小さく呟いた。「暗礁に乗り上げたな。見つかれば謎を解く鍵になり得たのに」

しかし彼は意志の力でこの失望を受け止め、伯爵の書斎に戻り再び椅子に腰を下ろした。見るからに落胆の様子を見せていたが、指輪の石をぐるぐる回していた。これは彼がその問題が解決不能なものと見なしていないことを物語っていた。彼は全くめげてはいなかったが、真実に辿り着くためには、多くの時間と彼以外のところから力を借りて捜査をしなければならないことを認識した。差し当たって、希望は一つだけであった……。5.27

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