ド・シャルース伯爵が死に際に書いた文言及び彼が発した最後の言葉を吟味することにより、伯爵の意図が読み取れる筈ではないか? 治安判事には経験によって研ぎ澄まされた叡智があるので、それが闇を照らす一条の光を見出す力となるのではなかろうか!
彼はマルグリット嬢に、伯爵がその考えを書き残そうとした紙を持って来るよう頼んだ。それから瀕死の伯爵が口にした最後の言葉をそのとおりの順に彼女自身その場で書きつけた紙も持って来させた。すべてを寄せ集めた結果、得られたものは以下であった。
『私の全財産……与える……友人たち……に備え……マルグリット……一文無しになる……お前の母親……用心せよ……』
単語で数えると十二個になるこの意味不明の文言はド・シャルース伯爵の頭を占めていた懸念の一端を表していたのだ。彼の財産及びマルグリット嬢の将来への心配、そしてまたマルグリット嬢の母親に対する嫌悪と恐怖を表しているようだった。が、それだけのことだ。それでは何の手がかりにもならない!
『与える』という言葉の意味は明らかである。彼は『私は私の全財産を与える……』と書きたかったのであろう。『一文無しになる』というのもまた自明である。彼は自分の娘とも思うマルグリット嬢が自分の財産から金貨一枚受け取ることが出来ないことを考えて胸の張り裂ける思いをしていたのであろう。『用心せよ』は説明の必要もない。
しかし判事にとって全く意味の分からない二つの言葉があった。彼はそれら二つを結びつけようとしたが上手く行かなかった。意味の通るような解釈を考えつくことが出来なかった。『友人たち』と『に備え』の二つである。それらは紙の上で二つ続いており、最もはっきり読み取れる言葉であった。もう三十回ほども判事は小声で繰り返していたがそのとき、ドアをそっと叩く音がして、殆どすぐマダム・レオンが姿を現した。
「どうしたの?」とマルグリット嬢が尋ねた。
家政婦のマダム・レオンはデスクの上にド・シャルース伯爵宛ての手紙の束を置き、こう言った。
「お亡くなりになったご主人様への郵便物ですわ。神よ魂を導き給え!」
それから新聞をマルグリット嬢に差し出し、飛び切りの猫なで声で付け加えた。
「それからこれはたった今、お嬢様にと届けられたものでございますよ」
「この新聞が、私に? お前勘違いをしているのでしょう……」
「いいえ、どういたしまして。私自身、ちょうど門番小屋におりましたときに業者が届けに来ましてね、これはマルグリット嬢にと、はっきり申したのでございます。友人の一人から、ということでございました」
そう言うと彼女は一番丁寧なお辞儀をして出て行った。5.28