エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIII-12

2021-08-22 12:08:08 | 地獄の生活

「面倒を見なきゃいけない? お前がか?」

「そうっすよ!俺だって、やるときゃやるんで! うちのお袋、身体が弱って一年前から働くことが出来ないんすよ。俺がいなけりゃ誰がお袋におまんまを食わせるんで? あのろくでなしの親父じゃないっす。セルムーズ公爵から貰ったお金を俺たちには一文も渡さず全部自分で食っちまった親父ですぜ!それに、おいらも皆と同じで金持ちになりたいし、楽しくやりたいっす……将来は立派な馬車を持ったりなんかして……以前のおいらみたいな小僧が馬車のドアを開けてくれる……そしたら必ずその手に百スー握らせてやって……」

ここで家政婦のドードラン夫人が入ってきたので彼は遮られた。彼女はすっかり動転した様子でノックもせずに飛び込んできたのである。

「旦那様!」と彼女は叫んだ。『火事だ!』と叫ぶのと同じ語調である。「ド・ヴァロルセイ様がいらっしゃいました!」

フォルチュナ氏は立ち上がった。真っ青になっている。

「くそ、一体何の用で来やがったんだ!」彼は口ごもりながら言った。「わ、私はいない、と言うんだ。その、なんだ……」

もう手遅れであった。ド・ヴァロルセイ侯爵が入って来ていた。

「あんたたち、席を外してくれないか」とフォルチュナ氏は家政婦とシュパンに向かって言った。

ド・ヴァロルセイ氏が非常に立腹していることは明らかであったが、また自制しなければと念じている様子なのも見て取れた。フォルチュナ氏と二人きりになるやいなや彼は切り出した。

「こういうことか、二十パーセントの親方、あんたは友達を裏切るんだな。昨夜、あんたが私に用立ててくれる筈だった一万フランのことで、私に本当のことを言わず私を騙したのはどういう訳だ? ……ド・シャルース伯爵の件については昨日から知っていたんだろう! 私は知らなかった。つい一時間前にマダム・レオンからの手紙を受け取るまでは!」

フォルチュナ氏は一瞬ためらった。彼は暴力を嫌う穏やかな性格で、最後の最後まで力に頼るようなことは避けたかった。が、ド・ヴァロルセイがステッキを扱う様子はどうも剣呑に見えた。

「誓って申し上げますが侯爵」と彼はついに言った。我々二人にとって恐ろしい不幸をもたらすことになる不吉な知らせをお伝えする勇気が出なかったのです」

「我々二人にとはどういう意味だ?」

「残念でございます。もし貴方様が何千フランかをふいになさったとすれば、私は……貴方様にご用立てしました四万フラン、私の全財産でございます、を失いました……。ですが、御覧のとおり私は事実を受け入れ諦めております。貴方様も同じようになさいますよう……。もうどうにもならぬのですから。負け戦です」8.22

コメント