エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIII-15

2021-08-28 08:45:04 | 地獄の生活

彼は博打打ちがカードを見ることを恐れるが如く、またアル中が強いリキュールの匂いを嗅ぐことを恐れるが如く、運を天に任せる勝負の誘惑を恐れていた。つまるところ彼は侯爵の巧みな弁舌を恐れていたのだ。もう既に当初の心積もりを超えるところまで深入りさせられてしまったではないか? それに、疑義を差し挟んだりするのは半分言い負かされたようなものだということも彼はよく知っていた。言い負かされるよりは何も聞かない方がましだった。

「もう何も仰いますな、侯爵」と彼は急いで答えた。「無駄でございます。私には金がありません。昨夜貴方様に一万フランご用立てしようと思えば、プロスペル・ベルトミー氏から借用するしかなかったでしょう。本当でございますよ! それに、仮に金があったとしましても、私の返事は同じです。『出来ませぬ』と。人は誰しも、自分の主義に従ってやっていくものではございませんか? 私の主義は、なくした金は追いかけるな、ということです。取り戻そうとすれば破産します。私にとっては、失ったものは失ったもの、もう考えないようにして、別のことを考えます。というわけで、貴方様に御用立てした四万フランは損益勘定に入れ、損失と諦めました。とは申せ、貴方様が私にそれを返却しようとお思いになれば簡単なことでございます。もし私の忠告をお聞き入れになり、おとなしく財産の処分をなされば……」

「そんなこと誰がするものか!」とド・ヴァロルセイ氏は遮った。「絶対せぬ!」

そして彼の脳裏に一瞬稲妻に照らし出されるように破産し零落した男の幻滅と屈辱が浮かび……

「落ちぶれたりなどしないぞ」と彼は叫んだ。「何もかも護り通す、外見も内実も。でなければ、一切を失うのみだ……あんたが断るというのなら、他を当たる。探し回る……我が良き友人たちは私を激しく憎んでおるが、私も御同様に彼らが嫌いだ。彼らにド・ヴァロルセイ侯爵が転落に転落を重ね、安物のズボンに底を張り替えた靴を履き一ルイの借金を頼む姿を見て楽しがらせることなど決してせんからな……。長年自分の優位を見せつけてきたというのに、そんな奴らの服の埃を払ってやったりなどするものか……。そうとも、絶対、そんなことはせん。そんなことをするぐらいなら死んだ方がましだ……それか飛び切り派手な犯罪でもしでかす方が……」

彼は自分の言ったことに自分でも多少驚いたのか、急に口を閉じた。そしてしばらくの間、フォルチュナ氏と彼は黙ったまま互いの目を見つめ合っていた。双方とも相手の心の奥の秘密を見抜こうとしていた。決闘場で戦う者同士が再開の前の休止の時間にそうするように。8.28

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