「無駄なお喋りはよそうではないか」彼は言った。「お互い、そんなことに費やす時間はない筈だ。私は貴殿を騙そうとしたことなど一度もない。だから頼む。私が貴殿と同じぐらいの切れ者だと認めては貰えぬだろうか」
相手の反応を待たず、彼は先を続けた。
「私が今日ここへ来たのは、勝負はまだ貴殿が思うほど絶望的状況ではないからだ……。確かに最初は茫然とした。が、その後つらつら考えてみるに、私にはまだ最後の手段が残されておるのだ。あんたも知らぬ手段が。あんたも、ほかの誰もがマルグリット嬢は無一文だと思っておる。そうだろ? ところが私には、彼女は少なく見積もっても三百万の価値があるのだ」
「マルグリット嬢に?」
「そうとも、二十パーセントの親方。彼女が私の妻になったら、その翌日私は十五万リーブルの年利収入を手にすることになるのだ……しかしそれにはまず、彼女と結婚せねばならぬ。ところがあの高慢ちきな女は、私が彼女を愛していて彼女の金には興味がないことに納得しない限り、首を縦に振らんのだ」
「しかし、例の男は?」
「例の男など、もはや存在せぬ。フィガロ紙の夕刊を読んだら納得がいくだろう。そうとも、これで私には競争相手などいない。私の破産をあともう少し隠し続けておれば、彼女は私のものだ。家族も味方もいない若い娘がパリの真ん中で長いこと身を守れる筈がない。とりわけマダム・レオンのような相談相手が間近にいれば尚更だ! ああ、彼女を勝ち取ってみせる。何がなんでもそうせねばならぬ!見ているがいい、今日にも彼女を我が物にする手がある……。今私から手を引くのが賢いやり方かどうか、よく考えてみるがよい。貴殿に頼むのは何も大したことではない。後二か月か三か月私を支援して貰えぬか……なに、三万フランほどの金だ。それぐらい私のために調達して貰えるだろう? これで貴殿からは七万フランを借りることになるが、然るべきときには二十五万フランをお返しする……なにがしかのリスクを負う場合の報酬としてはかなりなものではないか。よく考えて、決心をして貰いたい。逃げ口上や引き延ばしは困る。ウィかノン、そのどちらかで頼む」
一秒も躊躇わずフォルチュナ氏は答えた。
「それなら答えは、ノンです」
侯爵は更に顔を紅潮させ、声は更に荒々しさの度を加えたが、それ以上にはならなかった。
「それでは、私を破滅させる決心が貴殿の中にあるというのだな、はっきりと。私が最後まで言い終わらぬうちに貴殿はノンと言った。少なくとも私の計画がいかに信頼のおける確かな事実に基づいたものか、最後まで聞いてからにすべきではないのか……」
実際のところ、フォルチュナ氏の中にはっきりとあったのは、もう何も聞かないという決心であった。彼は説明など聞きたくなかった。聞けば自分の冒険好きな性格が目覚め、危険はあるが僅かな投資で莫大な利益を上げられるかもしれぬ投機へと誘われることを恐れたからである。8.26