エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XIII-13

2021-08-24 09:30:35 | 地獄の生活

ド・ヴァロルセイ侯爵は、顔を紅潮させ、眉に皺を寄せ、拳を握りしめながら聞いていた。今にも爆発しそうに見えたが、実のところは冷静だった。その証拠に、彼はフォルチュナ氏の無意味なお喋りの下に潜んでいる真意を見抜こうとして、その態度を必死に観察していた。道すがら彼は『親愛なるアラブの親方』と自分が呼んでいる男がこの損失に我を忘れるほど絶望し、喚き散らし、冒涜の言葉を吐き散らしていることだろうと思っていた。ところが全然違い、相手はこの上なく穏やかに落ち着き冷静で、澄ました顔で不幸の甘受を説くではないか。

『これは一体どういうことだ?』と彼は不安に胸を締め付けられながら考えていた。『こやつめ、何を考えてやがる? 俺を倒すための思いがけぬ攻撃を準備していると千対一で賭けてもいいぞ』

それから高慢な冷ややかな態度で口を開いた。それは彼の表現の陳腐さをさらに際立たせた。

「一言で言うなら、私とはこれでちょんということか」

相手は抗議の優雅な身振りをし、思わず心情を吐露せずにいられない、とでもいうような口調で叫んだ。

「この私が貴方様を見捨てると仰るのですか、侯爵!それは心外でございます。貴方様にそのように思わせるようなことを何か私がいたしましたか? ああ、予想外の事態が起きたということでございますよ。貴方様の気持ちを挫くようなことは申したくはございませんが、ここだけの話、抵抗するだけ無駄というものです。まだ希望を捨てきれませんか? 貴方様の贅を好む生活様式を今日まで続けるため、この上なく危険を伴う金策を用いてきましたが、それももう限界ではありませんか? 貴方様がひと月以内にマルグリット嬢と結婚するのでなければ、破産は免れない、というところまで来ているのです……ド・シャルース伯爵の何百万という金は貴方の手には入らず、貴方の身代は崩れ去ります……よろしいですか、もし私が貴方様に御忠告申し上げる失礼をお許しくださるのでしたら、こう申し上げます。この船が沈没することは必定です。こうなったら漂流物につかまるしかありません。密かにかつ迅速に一切合切財産の清算をなさることです。そうすれば貴方の政権者たちの鼻先でいくらか財産を救うことができます……清算するのです、それが今のやり方です! もし私でお役に立てるのでしたら、どうかご用命ください。ニースへでもお発ちになり、私に委任状をお残しください。貴方様のかつての栄華の名残りの中から幾ばくかを救い出します。まだ十分に今後に希望をつなぐほどの額を……」

既に先ほどから、侯爵はせせら笑いを浮かべていた。

「完璧な筋書きだな!」と彼は言い返した。「私を遠ざけておいて、自分は四万フランを取り返そうという腹だな? 全く巧妙な立ち回り方だ……」

 フォルチュナ氏はどうも見透かされてしまったな、と感じたが、だからと言ってどうということもない。

「誓って申しますが……」と彼は言い始めた。

 しかし相手は軽蔑的な身振りで彼を押しとどめた。8.24

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