男爵はヴィル・レヴェック通りに住んでいた。彼の住まいはその界隈で最も広く豪壮な建物の一つで、幸運な実業家、悪賢い金融家、鉱山の所有者といった存在を匂わせる場所だった。その贅沢さはパスカルの度肝を抜いた。このような豪邸に住んでいる人間が一体どうやってダルジュレ邸のテーブルで賭けゲームをして楽しめるのか、と不思議に思わずにいられなかった。
その邸に到着すると、召使いが五、六人中庭でぶらぶらしていた。彼はそのうちの一人の方にまっすぐ歩いて行き、帽子を手に持って尋ねた。
「トリゴー男爵は?」
相手はまるでトルコ皇帝の名を聞いたかのように、酷く驚いて彼をじろじろと眺めた。その驚き方に彼は自分が間違ったかと思い、重ねて尋ねた。
「男爵はここに住んでおられますよね?」
相手は大きな声で笑った。
「ああ、そうだとも」と彼は答えた。「しかも、あんた、えらく運の良いときに当ったもんだ……今、ご在宅だ」
「仕事の話がありましてね……」
その召使いは、同僚の一人に声を掛けた。
「おい、フロレスタン、旦那様は来客にお会いになるかい?」
「奥様からは何も聞いてない」
この返事で十分だったらしい。彼はパスカルの方を向いて言った。
「よし、そんなら、こっちへ……」8.6