「大貴族だと!」と彼は叫んだ。「お前はそう呼ぶのか? 人に注目されるには、話題にされるにはどうすればいいか、ということしか頭にない軽佻浮薄な女どものことを!奇抜さや贅沢さや騙しのテクニックで売春婦たちに勝つことを自慢にし、夫たちから金を巻き上げる腕と言ったら、自分の客の男たちから金を毟り取る売春婦たちに決して負けぬ!大貴族だと!高名な家系に生まれただけの名優を気取った大根役者だ。酒を飲み、夜食を食べ、煙草を吸い、仮面舞踏会を追いかけ、仲間内の符牒で喋り、『美徳に見せかけなくても大丈夫』だの『めんどくさい男はシャイヨー行き』、だの『あのひとは有名、私はその上を行く』だのとほざく。人々から野次を飛ばされれば賛同の声と思い、不評を浴びれば誉め言葉だと思うバカ女たちだ。女性の高貴さはその美徳によってしか得られないというのに……そして何よりも、お前の言う大貴族の奥様方に欠けているのは恥を知る心だ……」
「言っておきますけど」と男爵夫人が怒りで喉を詰まらせた声で遮った。「あなた、自制心をどこかに置き忘れたみたいね……あなたは私に……」
しかし男爵は止まらなかった。
「もしスキャンダルが大貴族を聖別するものなら」と彼は続けた。「お前は立派なお仲間だ……しかも最も高い序列に……ああ、お前は有名人だとも……あのファンシー(当時のパリの人気娼婦ジェニー・ファンシー、「オルシバルの殺人事件」参照)並みにな。お前の振る舞い、娯楽、活動、どんな衣装を身に着けていたか、などは新聞で知るんだからな、私は。劇場の初演公演や競馬場の記事を読むと、お前の名前が必ずそこにある。ファンシーやコーラやニネット・サンプロンの名前と一緒に。そしてこの私は、それにご満悦で……しかも自慢に思わなければ気難しい夫ということになるんだろう。ああ、お前は新聞に格好のネタを提供する……。一昨日、トリゴー男爵夫人はスケートをなさった、昨日は自ら馬車の運転をなさった、今日は鳩撃ちで際立った腕前を披露された……明日は活人画の中でセミヌードにおなりになる……明後日彼女は新しい色に髪を染め、芝居をお演じになる……。ヴァンセンヌの競馬場で騎手の計量の場に姿を見せたのはかのトリゴー男爵夫人であった……トリゴー男爵夫人は五百ルイ損をした……片眼鏡の素晴らしく粋な姿を見せたのはトリゴー男爵夫人である……ブーローニュから戻って『ブランデーを一杯ひっかける』のはお洒落だ、と豪語するトリゴー男爵夫人……。男爵夫人はすることなすこと、すべてが息をのむほどお洒落なので、新商品を世に出す商売人も彼女の名前をその色に冠するほどだ……トリゴー・ブルーは栄華の色、と……。トリゴー風衣装というのもある。というのも魅力的で才気煥発、エレガントな男爵夫人のファッションは独特で誰も考え付かないようなものだからだ。彼女の支持者たち、つまり頭のいかれた愚か者たちの一団が至る所彼女について回り、高らかに褒めそやす……。というわけだ。まじめな亭主、つまりこの私、は毎日社交欄でそれを読まされる。8.19