エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-II-12

2022-08-27 08:06:31 | 地獄の生活

夫の方はしばらく妻に好きなだけ言わせていたが、突然ギクシャクした口調で遮った。

「も、もう……よせ!偽善は、いい加減にしてくれ……何のために言い抜けするのだ、何の役にも立たないのに! お前は恥知らずなことなど何とも思わぬではないか。更に罪が一つ加わったところで何だと言うのだ!私は出鱈目を言っているのではない。証拠を出せというなら、一時間以内に両手に余る証拠を出して見せよう。私はもう盲目ではないぞ、二十年も前から! あの呪われた日以来、お前のことはすべて知っている。お前の悪辣さ、おぞましさがどれほどのものかを知らされたあの忌まわしい夜以来だ。お前が平然と私の死を企てているのを聞いたのだからな!

お前は勝手気儘に生きることに慣れきっていた。一方この私は、カリフォルニアに金を求め出発した最初の一団と共に幾多の危険を冒した。お前に一刻も早く富と安楽な暮らしを与えるために。ああ、なんたる愚か者だったか、この私は……。お前のことを思えばどんな労働も嫌だとか辛いとか思ったことはなかった……そして常にお前のことを考えていた。心は穏やかだった。お前を信じていたから……。私たちには娘が一人いた。私に不安な思いが兆したとき、お前がもしも悪い考えを持ったとしても揺りかごの娘を見ればたちまちそんな考えは頭から追い出される筈、と自分に言い聞かせていた。子供のない妻の不貞はあり得ても、母となればそれはない、と!

間抜けで愚かでどうしようもない夫、それが私だった。上首尾に心躍らせ、十八カ月ぶりに帰還した私は持ち帰った財産を見せた! 二十一万八千フランあった。お前を抱きしめながら私は言った。『愛するお前、これだけの富を得ることが出来たのはお前がいたからだよ』と。……しかしお前には迷惑だったのだ。お前は別の男を愛していた!私に偽りの優しさを振りまきながら、お前は悪魔のような狡猾さで陰謀を図っていた。成功すれば、私を自殺へと追いやる筈だった……。いいか、私に何か月も続いた苦しみをお前にたった一晩でも味わわせることができたら、それで復讐はなったと思うだろう。ところが、それだけではなかった! たった一度の抗えぬ情熱の故であったとしても、それは許しがたいことだったが。幻滅した私は何もかも知りたいと思った。そして知ったのだ。私の不在の間に、お前が妊娠したことを!

何故あのときお前を殺さなかったのだろう! 自分が知っているということをお前に隠し、何も言わないでいるというぞっとする勇気を持てたのは何故なんだろう! ああ、それは多分、お前を監視していれば、その私生児やお前の共犯者に行き着くことができるだろうと希望を持っていたからだろう。その裏切りと同じぐらい恐ろしい復讐を果たすことを夢見ていたからだろう。8.27

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