しかし侯爵に有利な動かしがたい状況もあった。彼の財産である。少なくとも人々の頭にある彼は大変な財産家であった。
「あれほどの金持ちが」彼を擁護する人々は言った。「盗みに等しいような行為をするだろうか? 今非難されているようなことは、一般大衆から金を巻き上げて自分の懐に収めるのと同じではないか。カードでインチキをするよりもっと酷いことだ! あり得ない。ヴァロルセイはそのような惨めな中傷を受けるような人間ではない。彼は完璧な紳士だ」
「完璧な紳士、ねぇ」と懐疑的な人々は応酬した。「その言葉はクロワズノワやH公爵やP男爵にも当て嵌められていた。しかし彼らは皆ヴァロルセイと同じペテンの罪を犯したと認められたではないか」
「破廉恥な中傷だ……もし彼がインチキをしようと考えたならもっと巧妙に疑いを掛けられぬよう立ち回った筈だ。せめてドミンゴを二位に着かせただろう、わざわざ三位にするのでなく」
「彼に後ろ暗いところがないのなら、何も恐れるものはない筈だ。何も今日自分の馬を引き上げなくたっていいし、厩舎そのものを売りに出さなくても良い筈だ」
「競馬から手を引くのは結婚するからさ。知らなかったのか!」
「いやいや、そんなことは理由にならないだろう……」
これまでド・ヴァロルセイ氏が巧みに隠してきた破産を、もし彼らが知ったらどんなことになっていたであろうか……。ともあれ、中傷であろうとなかろうと、これはこれまで傷つけられることなどなかった輝かしいその名前が被った最初の泥であった。
賭け事好きな人々が皆そうであるように、『馬場の常連たち』も疑り深く恨みがましい人間たちであった。自分が損をするということになると彼らはカモにされた怒りから何から何まで疑ってかかる。賭け事というものが人をどこまで引き摺り込むか、自分の胸に聞いてみれば分かるであろう……。このドミンゴ事件は、外れ券を掴まされたすべての人々をヴァロルセイに対して結束させた。彼らはちょっとした武装集団のようなものを作り、今のところは無力だがいつかその機会が到来すれば華々しく復讐に打って出ようと待ち構えていた。
当然予想されるごとく、ウィルキー氏はド・ヴァロルセイ氏に与していた。彼らの共通の友人であるド・コラルト氏からド・ヴァロルセイについての誉め言葉をさんざん聞かされていたからだ。しかしそうでなくても彼は同じように行動したことだろう。ただ次のように叫ぶ楽しみを味わいたいがためだ。
「あの侯爵を非難するなんて! そんなことはしちゃいけない! ほんの昨日僕は彼の口から聞いたばかりなんだから。『ねぇ君、ドミンゴが負けたことで私は二万ルイも損をしたんだ』とね!」
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