IV.
あの抜け目ないフォルチュナ氏ともあろう者が、何故日曜日を選んでしまったのであろうか。しかもヴァンセンヌで競馬の行われる日曜日に、ド・コラルト子爵の魅力的な友人であるウィルキー氏宅を訪れ、自らの存在を知らしめたのであった。この失敗の原因は彼の不安にあったのかもしれないが、だからと言ってそれを正当化することは出来ない。
他の日であったら、これほど無礼に厄介払いされることはなかったであろうに。彼は自分の提案を滔々と述べ、結局は断られることになったかもしれないが、そこからどういう発展があったかもしれないのだ。しかし、その日は競馬の行われる日だった。ウィルキー氏は自分がその三分の一の所有権を持つ障害物レースの競走馬『ナントの火消し』を視察せねばならず、同じく三分の一しか権利がないとは言え、騎手の雇い主としていろいろと命令を下さねばならなかった。なんと素晴らしい仕事であろうか! 哀れな駄馬の共同出資者であるということが、ウィルキー氏の唯一の社会的ステータスを物語るものであった。彼の属する世界では、これがモノを言うのである。というわけで彼のエルダー通りのアパルトマンには乗馬鞭とか拍車が飾ってあり、彼はいっぱしの競馬愛好家のふりをすることが出来たのだ。
それだけではない。彼は自分の登場が競馬場で待ち望まれているとうぬぼれていた。自分は晴れの舞台になくてはならぬ存在だと思っていたのである。ところが彼が葉巻を口に咥え、証明書を帽子に挟み、さっそうと騎手の計量場に姿を見せたとき、熱狂的な迎えは受けなかったことを認めねばならなかった。ある驚くべきニュースが競馬に賭ける人々や単なる競馬ファンたち---ウィルキー氏の言葉を借りるなら賭博者席にたむろする連中---の間を駆け巡り、ただならぬ興奮を惹き起こしていた。人々は多くの英語を使ってド・ヴァロルセイ侯爵がレースを棄権し、彼の持ち馬のすべてを引き上げさせる決定をしたという話をしていた。情報通の者たちは、その前夜馬券売り場で侯爵が自分の厩舎すべてを売りに出すと公言していた、という話をしていた。このように決定することで侯爵が自分に向けられた悪い噂を一掃できるであろうと期待していたなら、その思惑は失敗に終わった。噂はますます大きくなっていったが、それは彼が先週の日曜日のレースで密かに自分の『ドミンゴ』ではない別の馬に賭けており、ドミンゴを勝たせぬよう命令していたというものだった。大人気のドミンゴには多額の金が賭けられており、損をした者たちは面白くなかったのだ。10.16
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