エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VIII-4

2023-06-24 14:48:09 | 地獄の生活
料理女も首が挿げ替えられたのだろうか? この点はマルグリット嬢には確かめる術がなかった。ただ日曜の晩餐が前日のものとは全く様相を異にしていたのは事実だった。量よりも質が重んじられ、細心さが感じられ、豊富でもあった。シャトー・ラローズを取りに貯蔵室まで降りて行かせる必要もなかった。ワインはちょうど良いタイミングで、適度に温められた状態で出され、マダム・レオンの好みにぴったり合ったようであった。
この二十四時間でフォンデージ夫妻は本物の豊かさの中に身を置くようになった。辛くも外面だけを取り繕い裕福さを演じることは現実の貧苦より千倍も悲惨なことである筈だが、そのようなことなど経験したこともない、といった様子であった。
「私は思い違いをしていたのかしら。そんなことってある?」と彼女は自分の部屋に戻って一人になったときそう思った。彼女を混乱させたのは、いつもなら何事にもよく気の付くマダム・レオンが何にも気づかない様子だったことである。マルグリット嬢の目から見れば自ら白状しているも同然のバレバレの不用心さと思えることがマダム・レオンの目には止まらなかったようだ。『将軍夫妻』はとても素敵な方々で、と彼女は言った。お嬢様がこのお邸へのご招待をお受けになったのは、とてもよろしゅうございましたこと、と繰り返した。
「ここではまるで自分の家に居るようにくつろげますわ」と彼女は言うのだった。「それはまぁ私の部屋は多少狭くはございますけれど、きちんと調度品が入れられさえすれば、もう何も申すことはございませんわ」
その夜マルグリット嬢はよく眠れなかった。心がしっかり思い定まったと思った瞬間、もっと大きな疑念が浮かぶのだった。自分は一時の盲目的な感情でことを判断したのではなかろうか? フォンデージ夫妻は本当に自分が思ったように破産同然だったのだろうか?
ずっと不幸の中で生きてきた人間ならばそうであるように、彼女は人の目を欺くあやかしには強い拒否感を持っていた。自分の願いや希望を叶えてくれそうな状況には極端な警戒心を抱いた。今の彼女を支えているものは、彼女の唯一の味方であるあの老治安判事のもとへ相談に行くという計画、そしてド・シャルース伯爵が雇っていた便利屋がパスカル・フェライユールを探し当ててくれるであろうという思いだった。今ならもうフォルチュナ氏は彼女の手紙を受け取っているに違いない。火曜日には彼女の来訪を待ち受けている筈だ。後は誰にも怪しまれないように、二時間ほど留守にする口実を考えれば良いだけだ。
朝早く起きた彼女は身支度を整えていたとき、マダム・レオンの部屋の廊下に面したドアをそっと叩く音が聞こえた。
「どなた?」とマダム・レオンの声がした。
フォンデージ夫人の小間使いである、あのつんけんした女中の声が聞こえた。
「手紙が来ております。門番がたった今持って参りました。マダム・レオン宛となっております。あなた様のことですよね?」
マルグリット嬢の心臓は射抜かれたようにズキンとした。
「まぁ……あれはド・ヴァロルセイ侯爵からの手紙に違いないわ!」と彼女は思った。6.24

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