彼女は強く息を吸った。すべての血が胸に流れ込んだかのようであった。そして押し殺した声で続けた。
「ウィルキーは働きます。自分のため、そして私のために。彼が強い男なら、私達は救われます。もし弱い男だったら、そのときは私達二人とも破滅するだけの話です! ああでも、卑怯な行動や恥ずべき妥協はもうたくさん! 正直に生きている青年の名誉と私の兄の娘の幸福を、私が自分の息子のために犠牲にしたなどとは誰にも言わせません。果たすべき義務がどこにあるのか、私は見据えています。あらん限りの力をもって私はその義務に自分を縛りつけます」
男爵は表情と身振りで同意を示した。
「よくぞ申された!」と彼は言った。「ただ、これだけは言わせてください。すべてが失われたわけではない。法律というものは大義があれば戦う手段を用意してくれています。なんらかの方法があるかもしれない。貴女の夫には手を触れさせず、貴女が遺産を手に入れられるような……」
「ああそれは! 私もかつて相談してみたことがありますのよ。でも駄目だと言われました。私はがんじがらめだと。でも、貴方の方でも調べてみてくださいまし。貴方を信頼しています。貴方は私に無理強いするような方でないことはよく分かっています。でも、急いでください。最悪の事態でも今の私の苦しみよりはましなのですから……」
「迅速にやります。フェライユール氏は有能な弁護士だとのことです。彼と話してみます」
「それから、私に会いに来たフォルチュナという男に対しては、どうしたらいいでしょう?」
男爵はしばらく思いを巡らしていた。
「何もしないのが一番安全です」と彼はついに宣言した。「もしその男がなにか悪い企みをしているなら、貴女が会いに行ったり手紙を送ったりすれば事を速めるだけでしょう」
マダム・ダルジュレは頭を振っていた。その様子は彼女が事態に何の希望も持っていないことを表していた。
「結局は悪い結果になるのよ」と彼女は呟いた。
男爵もそう思わないでもなかった。が、勇気を振り絞る必要のある事態を前にして不幸な人間から前もって勇気を奪ってしまうことは思い遣りのある行為ではない。
「なあに!」と彼は軽い口調で答えた。「そのうちきっと運が向いてきますよ。風向きはしょっちゅう変わるもんです! いつも同じ者が運に恵まれるとは限らない。特にそれが悪人の場合はね! 私が賭け事をする理由はそれです……」1.21
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