「恐縮の至りです」と彼は言った。
「結構、結構」
「私がここに参りましたのは、まさに貴方の仰るとおりのことをお願いするためでした」
「でしょう! これで良い、これがベストです」
「ですが、私が何を意図しているか、それだけでも話させてください……」
「それには及びませんよ、君」
「どうか、お願いです! 私の計画を推し進めるうち、貴方の御意向、お気持ち、言葉、それに行動までも引き合いに出さねばならぬ事態が生じて来るでしょう。それらを貴方は後で撤回なさることも出来ます。私を安心させるために……」
男爵は、そんなことはどうでもいいことだ、という身振りをし、指をパチンと鳴らして、彼の言葉を遮った。
「何も心配せず、やりたいようにやってください」と彼は言った。「かの侯爵と忠実な手下であるコラルトの正体を暴くという目的を果たすのであれば、万事良しです。私のことなら、お好きなように利用して下さって結構、私は何も気にしませんよ……。ヴァロルセイの目に貴方はどう映るか? モーメジャン氏、私の代理人の一人、じゃありませんか? 私はいつでも貴方の行為を取り消すことが出来る」
それから彼の『若き友人』であるパスカルの計画は隅々までお見通しだ、ということを納得させねばならないと心に決めているかのように、付け加えた。
「それに、貴方が金満家の実務処理を任されている人間だということは誰しも承知するところです。ということはつまり、金ぴかのメダルのくすんだ裏側ということです。金満家というのは愚か者でない限り、金子の用立てを頼まれれば、いつでも微笑を湛えて「ようございますとも、喜んで!」と答えるものです。ただ、その後に続けて言う。「実務担当をしている私の代理人と話をしてください」とね。そしてこの代理人がいろいろと異議を差し挟み、最終的に自分の依頼人は現在自由になるお金がありませんので、と言って『ノン』を突き付ける……」
パスカルは尚も主張しようとしたが、男爵は取り合わなかった。
「もう、いい加減にしましょう」と彼は言った。「こんな無益な話で貴重な時間を無駄にするのはやめましょう……一日は二十四時間しかない。お分かりのように私はあまりに忙しくて丸一日カードに触る暇もなかった……実は、私はマダム・トリゴーと娘と娘婿のために、ちょっとした思いがけない贈り物を考えておるのですが、どうやら上手く行きそうです」
この不幸な男は笑い声をあげたが、それはなんとも耳障りな笑いであった!
「つまりですな」と彼は言葉を続けた。「毎年毎年、私は何十万フランという金を与えているが、その見返りとして妻には騙され、娘からは嘲弄され、娘婿からは間抜け扱いされ、この三人から揃って陰口を叩かれておるのです。ですが、私はまだそれを続けてもいい、婿殿言うところの『金蔓』であり続けても良いと思っている。但し、その金に対し、彼らが本物のとは言わぬまでも、せめて見せかけの愛情、献身、尊敬、そういったものを見せて私を喜ばせてくれたら、です! 内容の伴わぬ見せかけ、結構!7.17
「結構、結構」
「私がここに参りましたのは、まさに貴方の仰るとおりのことをお願いするためでした」
「でしょう! これで良い、これがベストです」
「ですが、私が何を意図しているか、それだけでも話させてください……」
「それには及びませんよ、君」
「どうか、お願いです! 私の計画を推し進めるうち、貴方の御意向、お気持ち、言葉、それに行動までも引き合いに出さねばならぬ事態が生じて来るでしょう。それらを貴方は後で撤回なさることも出来ます。私を安心させるために……」
男爵は、そんなことはどうでもいいことだ、という身振りをし、指をパチンと鳴らして、彼の言葉を遮った。
「何も心配せず、やりたいようにやってください」と彼は言った。「かの侯爵と忠実な手下であるコラルトの正体を暴くという目的を果たすのであれば、万事良しです。私のことなら、お好きなように利用して下さって結構、私は何も気にしませんよ……。ヴァロルセイの目に貴方はどう映るか? モーメジャン氏、私の代理人の一人、じゃありませんか? 私はいつでも貴方の行為を取り消すことが出来る」
それから彼の『若き友人』であるパスカルの計画は隅々までお見通しだ、ということを納得させねばならないと心に決めているかのように、付け加えた。
「それに、貴方が金満家の実務処理を任されている人間だということは誰しも承知するところです。ということはつまり、金ぴかのメダルのくすんだ裏側ということです。金満家というのは愚か者でない限り、金子の用立てを頼まれれば、いつでも微笑を湛えて「ようございますとも、喜んで!」と答えるものです。ただ、その後に続けて言う。「実務担当をしている私の代理人と話をしてください」とね。そしてこの代理人がいろいろと異議を差し挟み、最終的に自分の依頼人は現在自由になるお金がありませんので、と言って『ノン』を突き付ける……」
パスカルは尚も主張しようとしたが、男爵は取り合わなかった。
「もう、いい加減にしましょう」と彼は言った。「こんな無益な話で貴重な時間を無駄にするのはやめましょう……一日は二十四時間しかない。お分かりのように私はあまりに忙しくて丸一日カードに触る暇もなかった……実は、私はマダム・トリゴーと娘と娘婿のために、ちょっとした思いがけない贈り物を考えておるのですが、どうやら上手く行きそうです」
この不幸な男は笑い声をあげたが、それはなんとも耳障りな笑いであった!
「つまりですな」と彼は言葉を続けた。「毎年毎年、私は何十万フランという金を与えているが、その見返りとして妻には騙され、娘からは嘲弄され、娘婿からは間抜け扱いされ、この三人から揃って陰口を叩かれておるのです。ですが、私はまだそれを続けてもいい、婿殿言うところの『金蔓』であり続けても良いと思っている。但し、その金に対し、彼らが本物のとは言わぬまでも、せめて見せかけの愛情、献身、尊敬、そういったものを見せて私を喜ばせてくれたら、です! 内容の伴わぬ見せかけ、結構!7.17
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