エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-V-13

2023-01-13 10:37:58 | 地獄の生活

 「というわけで貴女は差し押さえられる。貴女は異議申し立てをしません。で一週間後パリ中に派手な掲示が貼り出され、司法当局によりドルオー通りの邸で競売が行われる旨宣伝される。マダム・ダルジュレの家具一式、持ち衣裳、カシミア、レース、ダイヤモンド等が最高値をつけた人に競り落とされる、と。これでどんな騒ぎになるか、目に浮かぶようではないですか? 貴女の友人やサロンに入り浸っている連中が大通りで口ぐちに言い合っている様子が。「おや君か! あのダルジュレの話を聞いたかい?……ああ、もちろんだとも……意図的な投げ売りだな……いやいや、賭け金を全部巻き上げられたんだ、すってんてんなんだよ……なんとなんと、残念なことだ! ……良い女だったのになぁ……そのとおりさ、彼女の舘では随分楽しかったね。ところでここだけの話だが……なんだね? ……残念ながら、彼女も娘盛りという年じゃないしね……ま、君も知ってのとおり僕のことだから、競売には行って一声なりと掛けてみるよ」 とこんな具合に、リア、貴女の友人たちはこぞってドルオー通りの舘に馳せ参じ、気前の良いところを見せてくれますよ。貴女の家の棚に置いてあった小さな置物に二十スーの競り値を付けたりなどして……」

 屈辱感に打ちのめされ、マダム・ダルジュレは頭を垂れた。たったこれだけの言葉だったが、今ほど自分の置かれた状況の悲惨さを如実に感じたことはなかった。彼女が転落した境涯の惨めさがこれほど赤裸々な言葉で表現されたことはかつてなかった。しかもこの侮辱は誰からもたらされたものか? 彼女の持つ唯一の友、彼女にとってのたった一つの希望であるトリゴー男爵からなのだった。そして恐ろしいことに、男爵自身はこの言葉の残酷さに全く気付いていないように見え、更に苦々しい皮肉を込めて言葉を続けていた。

 「例にならい、競売に先立って競りに掛けられる品物の展示が行われる。そこへ社交界の名花たちがこぞって押しかけてくるのを見ることになるでしょう。社交界出入りの商人たちや服飾専門家たちやその他の愚か者どもが『最高の貴婦人』と呼ぶ女たちを。彼女たちはある有名な女がどんな暮らしをしていたか、値踏みに来るのです。ついでに何か掘り出し物を安く買えるのではないかと物色しに。これぞ貴族の粋というものです! 最高の貴婦人たちは娼婦が売りに出したダイヤモンドを恥ずかしげもなく身に纏って見せびらかす。ああ、心配には及びませんよ。貴女の装飾品を見に訪れるのは私の妻と娘、ボア・ダルドン子爵夫人、ド・ロシュコート夫人とその五人の令嬢たち、という面々です。それから新聞記者たちも記事のネタを探しにやって来る。彼らは貴女の破産を公にし、貴女の絵画の値段を書き立てる。すべてが終わると……」

 マダム・ダルジュレはびくびくしながらもある種の好奇心を持って男爵を観察した。彼がこのような懐疑的な態度を誇示し、心から高揚した様子を見せるのは何年ぶりのことだろうか……。1.13


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