「結構ですわ」と彼女は返事した。「あなたの仰るとおりに致します……それでその後は?」
「何ですと! 私が何を言おうとしているか、まだ分からないのですか? その後は……貴女は姿を消すのです。私は新聞記者に五、六人は知り合いがいます。そのうちの一人に記事を書かせることは朝飯前ですよ。貴女が病院の粗末なベッドで死んだ、とね。これは胸を打つ、しかも教訓的な記事の見出しになりますよ。『巴里の花形また一つ去る』と新聞は書き立てるでしょう。『真面目に生きている婦人たちの眉を顰めさせるような娼婦の行き着く先はこのような終りである』とね」
「で、わたしはどうなりますの?」
「尊敬すべき女性になるのですよ、リア。貴女はイギリスに行き、ロンドン郊外に洒落た別荘を買ってそこに住み着くのです。そして新たな女性として生きる。貴女の家財道具を売り払って得た金でもって貴女とウィルキーは一年間は十分暮らして行けるでしょう。その期間が終わったら、貴女は必要な証明書類を取りそろえ、自分の身分を申し立て、ド・シャルース伯爵の遺産相続を申し出るのです……」
マダム・ダルジュレはここで突然立ち上がった。
「そんなことしません!」彼女は叫んだ。「決して!」
男爵は自分の耳を疑った。何か聞き間違ったのだろう、と思い、よく理解できなかった。
「な、なにを言っておられる」彼は口の中でもごもごと呟いた。「合法的に貴女のものである何百万という財産を放棄して国庫に委ねると?」
「ええ、そのとおりです。そうしなければなりません」
「貴女の御子息の将来が犠牲になるのですぞ……」
「いいえ、私には出来ないことでもウィルキーならしてくれます……もっと後になれば」
「しかし、そのようなことは狂気の沙汰だ……」
これまでぐったりしていたマダム・ダルジュレだったが、今は熱に浮かされたような興奮が彼女を捕えていた。怒りのため顔はきりっとなり、普段は活気なく沈んでいるその目は爛々と輝いていた。
「狂気の沙汰などではありません!」彼女は叫んだ。「復讐です!」
唖然としていた男爵が口を開こうとしたとき、彼女は遮った。1.15
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます