彼女自身は心に閉じ込めることなど全くない様子で、度外れの激しさで感情に身を任せていたので、ジョドン医師が高圧的な態度で彼女を諌めるほどだった。彼女はハンカチで何度も目を拭いながら、涙で言葉を途切れさせつつ尚も言い続けた。
「はい、お医者様、御尤もでございます……わたくし自制せねばなりません……。でもあなた様のお母様の名にかけて、どうかお願いでございます。私の大事なお嬢様をこのあまりに悲惨な場所から連れ出してさしあげてくださいませ。ご自分の部屋に戻られて、この手酷い打撃に耐えられる力をお与えくださいますよう神に祈ることが出来ますように……」
マルグリット嬢が自室に戻ることを考えてはいないことは明らかであった。が、彼女が自分の意向を表明する前にカジミール氏が進み出た。
「私が思いまするに」と彼はそっけない口調で言った。「お嬢様はここにおられる方が良いかと存じます」
「何だって!」とマダム・レオンがやおら身を起こして言い返した。「その理由が何か、聞かせて貰いたいもんだね」
「何故かと申しますと……それは……」
マダム・レオンの目からは、怒りのため涙が止まっていた。
「一体どういう意味なのかね」と彼女は言った。「お嬢様がご自分の部屋でお休みになるのを止め立てするとは?」
カジミール氏は傍若無人にも口笛を吹いた。昨夜同じことをしたなら、現在すぐ傍に横たわっている主人から平手打ちを喰っていたであろう。
「ご自分の部屋ですとね?」彼は言い返した。「昨日ならばね、私もこうは申しませんよ。今日となると話は別です。この方は伯爵のお身内ですか? いや、そうではない。それでは何と仰います? 此処にいる我々は皆同等の人間だ」
彼の嘲笑的な口調は大層恥知らずなものであり、破廉恥な卑しいほのめかしを殆ど隠していなかったので、ジョドン医師をも憤慨させたほどであった。
「ごろつきめ!」と彼は言った。
しかし相手は高飛車にはねつけた。その態度は彼がジョドン医師の召使いと昵懇の仲であり、従ってジョドン氏の秘密をよく知っていることを物語っていた。
「もしなんなら、おたくの下男をば、その名で呼ばれるがよろしいでしょう」と彼は言い返した。「私には当て嵌まりませぬぞ、お医者様。おたくのここでの仕事はもう終わったのではありませんか? 我々のことは我々に任せて頂きたいものですな。有り難いことに、私の頭は確かでございます。死が訪れた家に莫大な財産が地下室や屋根裏部屋に保管されている場合、慎重を期して振舞わねばならぬことは、皆心得ております。特に、その家に家族がお揃いでなく、おられるのは……その……誰もその素性を知らず、いかなる理由でそこに住んでおられるのか誰も事情を知らぬ……という方のみ、という場合には……。1.28
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