◎世の上流から下流まで濁りきる
古事記では、腐敗した伊弉冊命(いざなみ)の死体に巣くう神々の名を挙げるが、これらはいずれもこの火力文明の暴虐のシンボリックな説明になっている。
この惨憺たる有様にしびれを切らした伊弉諾命(いざなぎ)は、自ら黄泉の国に入り、伊弉冊命に改心せよと直接談判に臨むが、彼女はここでもう食事をしたので改心できないと申し出を拒絶した。よくよく彼女の姿を見ると、頭にも腹にも胸にも女陰にも手にも足にも悪神が巣くい、手の付けようがない状態である。つまり世の中の上流から下流まで嘘と虚飾、メリットデメリットだけの強欲な悪人、偽善者ばかりとなり果てていた。
世界のゴッドファーザーたる伊弉諾命のお出ましに、各国首脳たち(黄泉神)は鳩首して今後の方針を議論するが、なかなかまとまらなかった。
結局、世直しをしようとお出ましになった伊弉諾命のことを、その妻たる伊弉冊命(いざなみのみこと)は、汚いところを見られ恥をかかされたと逆恨みし、黄泉醜女(よもつしこめ。世間の人の9割がたは黄泉醜女の如きもの)を派遣し、追手をかけたので、このような社会全体の矛盾撞着に神様も驚いて跣足(はだし)でお逃げになることになった。