◎素直さと勢い
龐(ほう)居士一家は、三人家族。居士と妻と娘霊照である。
龐(ほう)居士が、ざるを売りに出た時、太鼓橋を下りる途中でつまづいて転んだ。それを見た娘霊照は、駆け寄って、自分もころんでみせた。
龐居士「おまえは何をやっているんだ?」
霊照「お父さんがころんだので、助け起こしてあげるのです。」
龐居士「誰も見ていなかったからよかった。」
これは、一見コントや漫才にあるシーン。だが、困窮し悲嘆にくれる相手になりきる。それも瞬時になりきるのは、平素から油断なく一瞬の隙もなく菩薩として生きていなければ、いきなりこのような慈悲の行いが発現するものではないだろう。
とかく娘霊照と龐居士のどちらの悟境が上かと見がちだが、死に際して、龐居士の準備した時刻と席で、霊照の方が躊躇なく坐脱していった娘らしい素直さに勢いを感じる。