◎酒飲みの心性
近代西欧文明は、日本もヨーロッパもアメリカも酒浸りの文化である。
表層意識と潜在意識の葛藤を無意識のうちに調整せしめるもの。それがアルコールである。
日本も含めて、近代西欧文明では、光の部分だけを強調し、闇の部分を抑圧してしまおうとする共通の心性が見られる。これをアポロン型の文明と呼ぶ。こうした心性の歪みを主として調整しているものが飲酒である。
アルコール依存症などの研究で指摘されているが、飲酒は人の攻撃性を強化する。飲酒は人の顕在意識を狭めることにより、潜在意識や感情を表面化させやすくする。
酒は、人生の重大な場面でのパートナーである。その攻撃性を高める効果を利用して、男女が恋を思いきってスタートさせる勇気を、恋心が高まった場面では告白する決断を、いやいや徴用された兵士にも、酒が戦場に向かう勇気を与えてくれる。
普段言えない感情的な不満を酒の上で述べ伝えるのは、酒なしでは非礼であるが、酒の上では許されるという日本独特の「酒中別人」を認めるルールまである。
酒飲みは、酒が感情を高ぶらせ、気分を高揚させるが、その高まりが、しらふなら気がつくことを、気がつかないように、意識を狭めていることによるものであるという仕組みを無意識のうちに知っている。酒の効用には、このように限界があることを知りつつ、それでも酒を飲むのが、酒飲みなのだ。
ところで手元にある「精神活性物質の事典」には、アルコール、酒の項目はない。アルコールには意識拡大の効果はないのである。