北国にもやっと春がやってきた。
我が家の庭にはまだかなり雪が残っているけれど、日当たりが良くて土がでているところではもうチューリップの芽が意外なほど伸びている。
花を見るまでそう長くはかからないだろう。
ところで、春になってチューリップを見ると、頭に思い浮かんできては私を悩ませる言葉がある。
「欝金香の羹」。
この言葉に出会ったのは、多分30年以上も昔のことだ。
浪漫の香りが立ち上ってくるような欝金香の文字。
うっこんこう、チューリップの別名だ。
羹は、よく見ると羊羹の羹だけれど、あつものと読む。
そして、「欝金香の羹」は「チューリップのあつもの」ということだ。
当時読んだ短編小説に出てきた。
多分主人公である女性が、増えて困ったチューリップの球根であつものを作ってみた、というくだりがあったのだと思う。
いや、もしかしたら、球根ではなく、花びらだったかも。
チューリップの球根できんとんを作ったという人の話と、混同してしまっているのかも知れない。
ところで、あつものって何?
調べてみると、お吸い物のことだとわかった。
つまり、「チューリップのお吸い物」というわけだ。
それならやはり球根だろうか。
百合根のしんじょのように作っておだしをかけたら美味しそうだ。
漆のおわんにチューリップの赤い花びらというのもなかなか素敵だ。
ところで、この不思議な食べ物、ほんとうに食べられるのだろうか。
材料はチューリップなのだから、作ろうと思えば簡単だ。
でも、食べてみる気になるかといえば、ならないだろうな~。
小説の中でヒロインの作ったチューリップのあつものを、誰か食べたのだろうか?
もう一度その小説を読んだら、そのあつものがどんなだったかわかるかも知れない。
でも、題名も作者も思い出せない。何だったんだろう・・・
そんなことを、つらつら考えるのだけれど、チューリップの花が終わった頃には忘れてしまう。
でも、翌年チューリップを見ると、また思い出して・・・という感じなのだ。
ところがこの前、そうだ、インターネットで調べてみればいいんだと思いついた。
でも、知られた作品とも思えないからわからないだろうな~と、だめもとで検索してみた。
そうしたら、なんと、ヒットした。
あるブログに、横溝正史の短篇に「薔薇と欝金香」というのがあって、その中に、「チューリップの羹」というのが出てくると、書いている方がいらっしゃった。
えええー、横溝正史だったのー!
私は、何となくだけれど、純文学系じゃないかと思っていたから、意外も意外、想定外だ。
でも、確かに「薔薇と欝金香」というタイトルには憶えがある。
ような気がする。
それに、考えてみたら、私、純文学なんて読んでいなかった。
でも、横溝正史なら殆ど読んだわね。
そうかぁ、横溝さんだったのねぇ。
長年の謎が、いとも簡単に解けてしまった。
インターネットって凄い!