ダーグ・ソールスター『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』
表紙の左上に入っている大きな車輪が目を引く。
その右下に『Novel 11, Book 18』。行間に小さく『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』。暗号のようで意味がわからないタイトルだ。
文字の並び、余白が生み出すスタイリッシュな空気から、青春小説が思い浮かぶ。
帯の「この企みは予測不可能」というコピーも、若い人間にある無謀さを予感させる。
表紙を開くと、カバーのイラストに続きがあることに気づいた。袖を広げていくと、自転車だと思っていたイラストは車椅子のようだ。障害が関わってくるのか? 少し混乱する。
最初の1行目で、主人公と思われる人物が50歳だと知らされる。やがて18年前のことを振り返り始めるが、どうも若者の話ではなさそうだ。
読み進めるうちに、わずかに気になることが出てきた。
文章に繰り返しが多いのだ。
主人公ビョーン・ハンセンが住むノルウェイの街コングスベルグ。この街の名前が最初のページに5回登場する。2ページめに3回、3ページめに4回。
同じ表現ではないものの、同じ事柄を複数回説明することもある。
訳者が村上春樹氏でなければ、これが何かを想起させるテクニックかもしれないとは考えずに、ただまどろっこしい文章だと思っただろう。
物語は章立てになっていないが、おおまかに3つ程度に分けられる。
愛人ツーリー・ラッメルスのこと、息子のこと、そしてビョーン・ハンセンとショッツ医師の企み。
ビョーン・ハンセンは、愛人にも息子にも愛情を持っているのだが、相手からは望むような反応を得られない。やがてビョーン・ハンセンは極度に冷たく相手を見つめるようになる。その悪意を感じるほど冷たい眼差しは、ビョーン・ハンセンが持つ本来の冷たさなのか。それとも相手をないがしろにしたり、心を開かない態度が、人の心を冷やしてしまうということなのか。
ショッツ医師との崩れつつある関係の果てに、自分の人生を自分で壊してしまう姿を見ていると、ビョーン・ハンセンは自分にも冷たいのだと、読んでいるぼくも心が冷えてしまう。
予測不可能の企みは、ぼくには若者の悪ふざけにしか見えない。
装丁は坂川栄治氏+坂川朱音氏(坂川事務所)、装画は谷山彩子氏。(2020)
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