ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

エルサレム

2021-12-12 11:12:27 | 読書
 ゴンサロ・M・タヴァレス『エルサレム』





 午前4時、腹部全体の激しい痛みで一睡もできない女性は、教会を目指して家を出る。

 たどり着いた教会では、下働きの男に「みんな眠っている、帰りなさい」と拒絶される。

 彼女は治癒の見込みのない病気に侵されている。

 痛みは増すが、同時に空腹も感じる。

 こんなに空腹なのに死ぬことはないと喜ぶが、路上で失神する。


 つかみどころのない空気に満ちた小説だ。

 時間が前後した書き方をしているためもある。

 美しい患者に恋をする若い医師。

 統合失調症だと言うその患者。

 多くの死体が並ぶ強制収容所の写真に見入る医師。

 戦場から戻ってきた男は銃を持ち歩いている。

 足に障害のある少年が、夜中に父を探して外へ出る。


 どこもかしこも、油断できないアンバランスな場所に立っているようで、すぐ隣には険悪な場面が広がっている気がしてならない。

 この世界に善はないのか、愛はないのか。

 気分重く本を閉じる。


 装画は小林希史氏、装丁は仁木順平氏。(2021)




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