ゴンサロ・M・タヴァレス『エルサレム』
午前4時、腹部全体の激しい痛みで一睡もできない女性は、教会を目指して家を出る。
たどり着いた教会では、下働きの男に「みんな眠っている、帰りなさい」と拒絶される。
彼女は治癒の見込みのない病気に侵されている。
痛みは増すが、同時に空腹も感じる。
こんなに空腹なのに死ぬことはないと喜ぶが、路上で失神する。
つかみどころのない空気に満ちた小説だ。
時間が前後した書き方をしているためもある。
美しい患者に恋をする若い医師。
統合失調症だと言うその患者。
多くの死体が並ぶ強制収容所の写真に見入る医師。
戦場から戻ってきた男は銃を持ち歩いている。
足に障害のある少年が、夜中に父を探して外へ出る。
どこもかしこも、油断できないアンバランスな場所に立っているようで、すぐ隣には険悪な場面が広がっている気がしてならない。
この世界に善はないのか、愛はないのか。
気分重く本を閉じる。
装画は小林希史氏、装丁は仁木順平氏。(2021)
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