ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

イスタンブル、イスタンブル

2024-04-28 11:10:57 | 読書
 ブルハン・ソンメズ『イスタンブル、イスタンブル』


 帯に使われている紙は折りに弱いのか、曲げられた端の赤いインクが剥げて白い下地がところどころ見えてしまった。この本を携えてもうひと月が経とうとしているためかもしれない。

 経年劣化、同時に風格とも感じさせてしまうのは、この小説が繰り返し触れるイスタンブルという街の美しさと重なるからだろう。


 美しい街の地下に牢獄がある。

 その牢には窓がなく、寒くて時間もわからない。

 政治犯として囚われた同房の4人は、経歴も年齢もバラバラ。彼らはときおり別の部屋へ連れて行かれ拷問を受ける。

 部屋に残った者たちは物語を語り合う。それは辛い現実をしばし忘れるための工夫だった。

 やがて拷問は激しさを増し、息も絶え絶えになって監房に戻される。

 一滴の水もない部屋の中で、彼らは想像上の煙草で一服し、チーズやピクルスを食べ蒸留酒で乾杯をする。

 想像力のたくましい力、しかしそこには死の影がチラついてしまう。

 彼らはここから生きて出られるのか。


 傷んだ帯を外したとき、上と下に繰り返される「ISTANBUL」が、延々と表示され続けるような錯覚がして目が眩んだ。

 この物語が、ただの空想上の話ではないと解説を読んで知ったあとだからなのか。(2024)



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