ロシア軍が中心地まで約10キロに迫るウクライナの首都キエフ。危機にさらされる300万人の市民は一体どうなるのか。現地で取材を続けるジャーナリストの田中龍作氏が、現地の様子をリポートする。
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日本のメディアは「市内マンションにミサイル命中」などと報じていますが、大統領府周辺の中心地は、すでに多くの市民が避難しているからなのか、基本的に静かです。
ただ、時おり空襲警報や、遠くで爆撃と思われる「ドーン」という音が聞こえます。私は昨年末に現場に入りましたが、最初に爆撃音が聞こえたのは、プーチン大統領が24日朝に「特別軍事作戦」実施を表明してから約5時間後。でも、現状でも10キロ程度離れた場所で爆撃が起きている印象です。
私は過去にも戦場で取材したことがありますが、1キロ圏内で爆撃が起きると強い爆風を肌で感じるものです。今、そこまで切迫した感覚はありません。市街戦も始まっておらず、政府機関は健在です。大統領府周辺に駐留するウクライナ軍も士気が高そうに見えます。
市民がすし詰め状態、息苦しさを感じるほど
ただ、エッセンシャルワーカーを含む市民の多くが避難しているため、都市機能はほとんど失われています。バスもタクシーも走っていませんし、鉄道駅は地下シェルターとして使用されている。飲食店も閉まっています。開店しているスーパーも確認できたのは1店だけでした。
心配なのは、避難する市民の間に不安が広がっていることです。キエフでは、地下鉄駅の他にもスーパーやアパートの地下にシェルターが備えられているケースが多い。市内には数千カ所にあるといいます。シェルターで見た、子供を抱きしめる母親の絶望した表情が忘れられません。
シェルターによっては、内部が「密」になっていることも心配です。あるシェルターを取材したところ、避難する市民がすし詰め状態で、息苦しさを感じるほどでした。ウクライナでも新型コロナは収束していませんから、この状態が長引くと、蔓延してしまう恐れもあるでしょう。(文=田中龍作/ジャーナリスト)
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