イタリアの風に吹かれて ~con te partiro~

前世(かこ)から未来(いま)へと紡がれし時の記憶
あなたと交わした約束の欠片を辿る遥かなる愛しき旅

いぶし銀のひたむきさに感動する

2012年10月24日 23時57分49秒 | 感動

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 昨日何となくつけたテレビで
  NHKのハイビジョン特集が流れていた。
 既に番組の途中だったが見た方がいい気がしたので
  そのまま見る事にした。
  見て、見せて頂いて本当に良かった。

  ある稽古場の風景。そこには先日お亡くなりになった
 名優 大滝秀治さんの在りし日のお姿が映されていた。

 大滝さんというと私の中で強く印象に残っているのは
 1987年の NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で
   政宗の学問の師、虎哉宗乙 (
こさいそういつ)
  虎哉禅師を魅力的に演じた大滝さんのお姿だった。

  大滝さんの包み込むような声と、笑顔が鮮やかに
  心の中に残っている。

  大滝さんがお亡くなりになったあとに知ったのだが、
  あの味わい深いお優しい声も かつては
  劇団民藝の創設者である宇野重吉氏に
「お前の声は壊れたハーモニカ」
「俳優失格」と言われ続け意外にも下積みが長く
 5
0才を過ぎるまで無名だったということには 
驚かされた。

 宇野重吉氏には一言の台詞を3日間
  やり直しさせられたこともあり、かなり厳しい
   ご指導を受けられたことを番組を見て知ったが、
  腐ることなく 投げてしまうことなく
 ただひた向きに台本と向き合い続けた大滝さんを
  本当に素敵な方でいらっしゃると感じた。

  宇野氏に生涯1度だけ褒められたことがあると
  嬉しそうに「これは宝物」と、ボロボロの台本を
  満面の笑みでインタビュアーに見せてらした
  大滝さんのお姿は清らかそのもので
   その美しいお姿にジーンとした。
 台本には宇野氏の「よくなりましたね」と
言うようなシンプルな言葉が
僅か1行か2行書かれていただけだった。

脇役だった大滝さんを「うちのホンカン」という番組で
 熱血漢で人情味溢れる主役の警官役に抜擢した
倉本聰氏は台本をボロボロになるまで読み込まれる
 大滝さんのことを温かな瞳でお話しされていた。
また当時のスタッフは役になりきる為に大滝さんが
 暫く本物の警官の所へ通っていたという、一途で
  型破りな役作りのエピソードを披露された。

 2009年10月に84才で劇団民藝の舞台『らくだ』で
主演を勤められた稽古場の様子が映し出されていた。

 30代の俳優、和田さん扮する ならず者と
(実は酒乱の)一見 人のいい くず屋との掛け合いが
主だった、
殆ど2人芝居と言ってもいい台詞は膨大で

 背中に湿布を貼り、老いと戦いながら 台本を
片時も手離す事なく読み込んでいらっしゃるお姿からは
  緊張感がヒシヒシと伝わり私までハラハラドキドキし、
初日までに無事仕上がります様にと祈りにも似た思いで

  稽古場での風景を画像を通して拝察させて頂いた。
 
 膨大な台詞を覚えきる為にと途中からは
和田さんと2人で朝台詞合わせの稽古をしてから
更に全体での通し稽古に入るという大滝さんに
 ぐっと熱いものがこみあげた。

大物俳優が後輩に言った一言で委縮してしまう場面を
これまで何度もご覧になって来られたという大滝さんは、
「後輩が委縮しないように変な一言はいわない」と仰り、
後輩達に指導する事もなく只々黙々とご自身の台詞に
 向き合っていらっしゃるのを拝見し、偉ぶることのない、
 謙虚でお優しいお人柄に、大滝さんこそ ジェントルマンと
 呼ぶにふさわしいお方なのではなかろうかと
思った。
そんな大滝さんだったが ある時の稽古中 和田さんが
委縮しないように さりげなく気遣いながらも、やや熱く
「思えば出る」という宇野重吉氏の教えを伝えてらした。
「思えば出る、というのは思わない事はするなという事。
 ねばりがねばりとして見えるのは芝居になってしまう」

大滝さんの言う【ねばる】とは口先だけの芝居の事であり
役を生きなければ、リアリティーが出ないことを
  和田さんに伝えたかったのだ。

背中に湿布を貼りながら 自主的に朝稽古を行い
午後の稽古のあとは自力で立てない程フラフラになりながら
台詞を忘れる恐怖やプレッシャー、体力の限界と戦いながら、
 初日が近づくにつれ覚えきれていない台詞を手に書き
稽古に臨むお姿に言い知れぬ深い感動と尊敬を覚えた。

稽古の合間、後輩女優に足のマッサージをして貰いながら
 和田さんの事を気にかけながら、苦悩に満ちた表情で
  「君達が思う以上に頭は老化してるんだよ。
 醜態を見せたくない」と仰られる大滝さんの役者魂に
  頭の下がる思いがした。

2009年10月新作の舞台『らくだ』初日の様子が流れた。
  和田さんとの二人芝居の場面、ラストのシーン。
 私はほんの一部を画面を通して拝見しただけなのに
  もの凄く引き込まれ感動した。

  最後に大滝さんが踊る場面は神々しさを感じた。
  初日は殆ど完璧に近い出来だったという。

膨大な台詞が入らない恐怖と戦いながら
  1カ月公演をやり遂げたというナレーションに安堵した。

  小学校の時、担任に抜擢され夏目漱石の
 『坊ちゃん』のマドンナ役を演じたことがあるが
  私はこの時 演じることの楽しさを体感した。
   子供の頃から人前で歌ったり、物まねしたり、
   話したり、朗読したりが大好きだった。
    中学1、2年では文芸クラブに所属していたが、
中学3年の時はやはり演劇がしたくて演劇クラブに入り
『遥かな森に光満ちる時』の台本を貰いルーピーという
  妖精の役を頂き文化祭で演じた。
衣装や羽根や魔法のステックや靴、頭の飾りなど全て
   自分達で作った。演じる楽しさを覚えた。
  けれど当時の私には
その道への進み方など
   何も分からなかった。


それから何十年もの時を重ね大好きだった演じる事は
 すっかり封印し今は大好きな俳優さんの
ファンクラブに入り、舞台を見に行く生活を送る中、
 今回、思いがけず 大滝さんご健在の時の
ドキュメンタリーを拝見させて頂いて 
初日の幕が開くまで
役者さん達がどれだけ稽古を重ね、
 プレッシャーと戦っていらっしゃるのかを改めて知った。
      そして「演じたいなぁ~」と思った。

  後悔先に立たずであるが
    大滝さん主演の『らくだ』拝見したかった。

幸い自宅に大滝さんご出演の、あるDVDがあるので
 哀悼の意を表しゆっくり拝見させて頂こうと思う。
何度も見たDVDだがきっとこの作品も大滝さんは
ボロボロになるまで台本を読み込まれていたであろうと
  想像すると今までの見方とは異なるように思う。

 ◆おしらせ◆
     10月28日 午後1時5分~2時55分 
   NHK アーカイブス『大滝秀治さんを偲んで』
   
   色々な気づきを頂けるそんな気が致します