昨年10月に中国西安から大阪の会社に来て働いている邵利明(シャオ・リミン明明)が近頃少し疲れ気味だ。
入社当時は言葉(関西弁)が理解しにくくてだいぶ悩んだようだ。中国の大学の日本語科で学んだのは標準語だから、関西弁は外国語のように聞こえたらしい。それでも1年もたつと聞いても解るようになったと言い、「おまえアホか」、「うちアホちゃうで」などと冗談の遣り取りも面白がっている。友人もできたようだが、会社には中国人は彼女だけで、日常生活で中国語を話す相手はいないからその点は寂しく、ときおりは孤独感にとらわれることもあるようだ。それで東京の施路敏(シ・ルミン)を紹介したら、時々電話で話して相談し合ったりしているらしく、まだ会ったことはないが良い友人になっている。そんなことで言葉の問題は何とかなっているが、今の悩みは勤務時間のことのようだ。
朝は7時に起き、7時半を回った頃には家を出る。それだけなら特にどうと言うこともないのだが、出社するのは8時過ぎ。会社の始業時刻は9時である。終業は6時だが普通は7時過ぎまで残る。家に帰る途中で夕食をとり、帰宅するのが9時ごろになる。帰ってもテレビを見るくらいで何もする気になれないと言う。休みの日には昼ごろまでぐっすり眠る。中国にいたときにはツアーのガイドをしていたので体力はあるはずで元気だったのだが、終日のデスクワークは慣れないこともあって疲れが溜まるらしい。
9時始業なら9時前に出ればいいじゃないか。夕方も特に何もなければ6時になれば帰ればいいと言うと、そんなわけにはいかない、皆早く出勤していて私が一番遅いくらいだし、夜も皆遅くまで残っているからと言う。課内にはどうやら皆を取り仕切っている(つもり)の40歳くらいの独身女性がいて、7時半ごろにはもう出社していて、夜も9時ごろまで残っているそうだ。そんな彼女に社員たちは皆遠慮しているのか、それとも性分なのか、皆早く出て遅くまで残っているようだ。彼女は残業の認定もするようで、明明に「邵さんは7時まで残ったけれど6時としておいて」と言ったそうだから、要するに残業手当はつけないということだったようだ。同僚達と夕食をしたときに皆も「6ピタ(6時ぴったり)に帰ったらいい」と言ったので、これからはそうすると言った。しかし、朝はやはり皆に合わせないと遅く出るのは怖いと言う。始業時間前に出るのだったら遅いことではないじゃないかと言ってもそれはできないと言う。そういう雰囲気なのだろう。
あんなに早く来て遅くまで残っていて、皆疲れているようで、休みの日は寝るだけのようだけれど、あれでは生活はどうなっているのだろう、日本人は自分の生活を楽しんでいない、中国人は生活を楽しみますよと明明は言う。もちろん最近の中国人の中にも金儲けのために猛烈に働いている者もいるようだが、一般の勤め人は日本に比べて猛烈社員というのは少ないらしい。だから日本人は勤勉で、中国人は怠けているとは言えないだろう。
明明が言うとおり、自分の生活は楽しいものでなくてはならない。毎日朝から晩までのべつ幕なしに働いてぐったりして帰宅し、休みの日をひたすらに待ち焦がれるという生活は心を貧しくさせるのではないか。それに毎日定時を過ぎても残って仕事をするというのは、仕事の段取りが下手だから勤務時間内に処理できないのだという見方もできるだろう。現実の企業の状況はそんなに甘いものではない、働く者はそのように過酷な状況に置かれているのだという指摘もあるだろうが、少なくとも明明の目に映る同僚社員たちの姿は理解しにくいものらしい。
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入社当時は言葉(関西弁)が理解しにくくてだいぶ悩んだようだ。中国の大学の日本語科で学んだのは標準語だから、関西弁は外国語のように聞こえたらしい。それでも1年もたつと聞いても解るようになったと言い、「おまえアホか」、「うちアホちゃうで」などと冗談の遣り取りも面白がっている。友人もできたようだが、会社には中国人は彼女だけで、日常生活で中国語を話す相手はいないからその点は寂しく、ときおりは孤独感にとらわれることもあるようだ。それで東京の施路敏(シ・ルミン)を紹介したら、時々電話で話して相談し合ったりしているらしく、まだ会ったことはないが良い友人になっている。そんなことで言葉の問題は何とかなっているが、今の悩みは勤務時間のことのようだ。
朝は7時に起き、7時半を回った頃には家を出る。それだけなら特にどうと言うこともないのだが、出社するのは8時過ぎ。会社の始業時刻は9時である。終業は6時だが普通は7時過ぎまで残る。家に帰る途中で夕食をとり、帰宅するのが9時ごろになる。帰ってもテレビを見るくらいで何もする気になれないと言う。休みの日には昼ごろまでぐっすり眠る。中国にいたときにはツアーのガイドをしていたので体力はあるはずで元気だったのだが、終日のデスクワークは慣れないこともあって疲れが溜まるらしい。
9時始業なら9時前に出ればいいじゃないか。夕方も特に何もなければ6時になれば帰ればいいと言うと、そんなわけにはいかない、皆早く出勤していて私が一番遅いくらいだし、夜も皆遅くまで残っているからと言う。課内にはどうやら皆を取り仕切っている(つもり)の40歳くらいの独身女性がいて、7時半ごろにはもう出社していて、夜も9時ごろまで残っているそうだ。そんな彼女に社員たちは皆遠慮しているのか、それとも性分なのか、皆早く出て遅くまで残っているようだ。彼女は残業の認定もするようで、明明に「邵さんは7時まで残ったけれど6時としておいて」と言ったそうだから、要するに残業手当はつけないということだったようだ。同僚達と夕食をしたときに皆も「6ピタ(6時ぴったり)に帰ったらいい」と言ったので、これからはそうすると言った。しかし、朝はやはり皆に合わせないと遅く出るのは怖いと言う。始業時間前に出るのだったら遅いことではないじゃないかと言ってもそれはできないと言う。そういう雰囲気なのだろう。
あんなに早く来て遅くまで残っていて、皆疲れているようで、休みの日は寝るだけのようだけれど、あれでは生活はどうなっているのだろう、日本人は自分の生活を楽しんでいない、中国人は生活を楽しみますよと明明は言う。もちろん最近の中国人の中にも金儲けのために猛烈に働いている者もいるようだが、一般の勤め人は日本に比べて猛烈社員というのは少ないらしい。だから日本人は勤勉で、中国人は怠けているとは言えないだろう。
明明が言うとおり、自分の生活は楽しいものでなくてはならない。毎日朝から晩までのべつ幕なしに働いてぐったりして帰宅し、休みの日をひたすらに待ち焦がれるという生活は心を貧しくさせるのではないか。それに毎日定時を過ぎても残って仕事をするというのは、仕事の段取りが下手だから勤務時間内に処理できないのだという見方もできるだろう。現実の企業の状況はそんなに甘いものではない、働く者はそのように過酷な状況に置かれているのだという指摘もあるだろうが、少なくとも明明の目に映る同僚社員たちの姿は理解しにくいものらしい。
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