久しぶりにミーシャを病院に連れて行った。生まれて間もなく、もらってきた後で避妊手術をして以来のことだから、もう10年以上はたつ。1週間ほど前から元気をなくして、何も食べようとせず、階段でじっと寝てばかりいた。声をかけても鳴こうともしない。病気になったのかと気になったがどうすることもできずその儘にしておいたが、3日ほどして傍に寄り、「どうしたんだ」と言って頭を持ち上げてみると、左首の根元に大きな傷があるので驚いた。皮膚がぱっくり裂けていて真っ赤な筋肉らしいものが見えている。タオルに水を含ませて血を拭ってやろうとしたが、痛いのか大声を上げて嫌がるので止めた。
元気がなかったのはこの怪我のせいだと分かったが、どうやら他の猫にやられたらしい。犯人はおそらく例のノラのローニンだろうと思った。そう言えばその頃家の前でギャッという声がしたので「ミーシャ」と呼ぶとローニンが逃げていったから、その時にやられたのだろう。「おのれ、にっくきローニン奴」と腹が立ち、今度来たら杖で打ち据えてやろうと思ったが、ローニンはノラだけあってすばしこいからだめだろう。ミーシャはローニンと仲が悪いようだが、どうやらローニンには敵わないらしい。仕方がない、ミーシャはお嬢さん育ちだからなと思う。もっともほったらかしのお嬢さんなのだが、わがまま娘(おばさん?)ではない。
それでも3日前あたりからやっと元気が出て餌を食べ、外にも出るようになったが、相変わらず傷口はその儘だ。それで近くにある動物病院に連れて行った。ミーシャが初めて家に来た時に養い主につけてもらったバスケットに入れたが、嫌がりもせずに入った。11年前にもらった時のミーシャの体長は今の彼女の尻尾よりも短かったが、今ではバスケットいっぱいの大きさだ。病院に連れて行く途中、不安なのかニャオン、ニャオンと鳴き、病院の待合室でも鳴き続けたが、診療室に入ると不思議に鳴き止んだ。
病院の助手の女性はさすがに扱いが上手く、ミーシャは私以外の人に抱かれるのを嫌うのにひどくおとなしくしていて、先生が手当てを始めてもじっと静かにしているのがいじらしかった。先生が言うには、傷が膿んでいるから縫合しても膿が溜まって裂けるだろうから、深いところだけ縫っておいて、14日間効く化膿止めの注射をしておく、それと消毒薬を出すから1日に2回それで洗浄するようにということだった。
帰るときに受付で支払いをしたが、診察料1,000円、注射料3,000円、薬代1,000円、処置料1,500円の計6,500円、消費税が320円で合計6,820円。予想はしていたがずいぶん高くついた。猫には医療保健がないからこんなものだろうが、思いがけない余計な出費で、「おのれ、ローニン奴が」と改めて心の中で毒付きながら帰った。