我が家のすぐそばにある田で、稲が稔りの時を迎えている。今年は田植えをして以来台風にも見舞われず順調に生育していた。素人目には例年よりもしっかりと育っていたように思う。
穂を出して花が咲くと、あたりにはかすかに爽やかな芳香が漂い、やがて実を着けたかと思うとどんどん膨らんで、穂が首を垂れだした。まだ田には水があるが、これが抜けると穂は熟して刈り入れになるのだろう。穂の様子を見ると今年は豊作のような気がする。
このあたりの土地は古い。近くにある稲荷神社の森の外れには、今は取り払われたが江戸時代の古い墓がいくつもあった。中には「○○童子」とか「○○童女」と記された墓が多かったから飢饉でもあったのかと思ったが、いつの頃のものなのかは分からなかった。いずれにしてもこのあたりには古くから農民が集落をつくり、米を作っていたのだろうから、私が目にしている田も、多少は変わったかもしれないが、古い時代からずっと続いて来ているのだろう。その頃はどのような風景だったのか、タイムスリップしてみたい気にもなる。
しかし、目の前にある稲は当時の稲の直系のものではあるまい。特に最近はいろいろと改良された品種が使われているだろうから昔のものに比べるとずいぶん丈夫で、稔りの良いものになっているはずだ。だがこの稲でも今ここにあるということは、変化しながらも遠い古代からずっと続いて来たものだ。それをたどっていけば弥生時代にも行き着くだろう。このあたりには弥生時代にも集落はあって稲が栽培されていたのだろうか。さらにはもっともっと古く、原始時代の中国にも遡れるだろう。その頃の稲はどのようなもので、人間はどのようにしてそれを採っていたのだろう。田の傍でそんなことをぼんやり考えた。