最近、中国で住民と警察の衝突がよく起こっているようだ。
山東省済南で、警官の横暴な振る舞いに怒った住民数千人が警察車両を壊したり、道路を封鎖したりする騒ぎが起きた。女性警官が、自分の車を優先して修理するよう業者に頼んだが断られたため、夫にこの業者を殴らせた。これに激怒した住民らが警官らを取り囲み、駆けつけた警官隊の車両を壊すなどしたということだ。また同じ山東省済南で、女性看守と夫が街中でお年寄りの女性に暴力を振るい、怒った市民数千人が抗議、出動した警察車両を破壊するなどしたというニュースもあった。女性看守はささいなトラブルから夫に女性を殴らせ、女性に土下座を強要したという不愉快なもので、2人の横暴に怒った市民が集まり、数時間にわたって暴れまわったという。
どちらの騒ぎも同じ日に起こっているし、似ているところがあり、香港にある中国人権民主化運動ニュースセンターが発表したものなので、あるいは一つの事件が別のルートで変形して伝わったのかもしれないが、中国では強い権限を握る治安関係者に対して多くの住民が不満を抱いているために、小さなトラブルがきっかけになって、大規模な抗議行動と衝突に拡大することが多いようだ。広東省広州では6月に治安要員が女性露天商を殴ったことをきっかけに数千人規模の暴動が起きた。貴州省畢節では、これも治安要員が女性露天商に暴力を振るったために怒った住民と警官隊が衝突したという、広州とそっくりな騒ぎも起こっている。
私も何年か前に上海の豫園商場の外の路上で夜、警官が路上で女性が売っていた花火を取り上げて、それを足で踏みにじっているのを見たことがある。その中年の女性は大声で泣き叫びながら大男の警官の脚にしがみついて花火を取り戻そうとするが、警官は意に介せずどすどすと花火を踏み潰し続けた。路上で花火を売ることは禁止されているらしいから、女性は違法行為をしていたので摘発されても仕方がないのだろうが、その大男の警官のやり方は職権を傘に着た横暴なもので、いかにも貧しい庶民を見下しているように見えて腹が立った。こういうのを権力の手先、イヌと言うのだろう。日本の刑法にある「特別公務員暴行陵虐罪」などは、中国ではないのだろうか。
中国には「為人民服務 weirenminfuwu」ということばがある。市政府など公共の場でよく見かける標語で「人民のために奉仕する」ということだ。もともとは毛沢東が言った言葉だが、現在の胡錦濤政権のスローガンでもあるようだ。しかし、このことばを今の中国の人達が聞いても、多くは鼻白んだり、冷笑したりするのではないか。中国の公務員(役人、官僚)は根深い汚職体質と、庶民を見下したような振る舞いで信頼を失っている。日本に留学したある中国人の体験を読んだことがあるが、ビザの申請などでも袖の下が必要だし、木で鼻をくくったような横柄な態度が不愉快で、日本に来て空港で通関するときに係員が笑顔だったことに驚いたと言っていた。こういう中国の役人の態度が、中国に帰りたくないと思わせることもあったようだ。今は少なくなったが、かつては国営企業が多く、そこの従業員の接客態度もひどく悪くて、西安の李真は幼い頃に店の女性従業員に怒鳴りつけられたことがあったそうだ。人民への奉仕も何もあったものではない。
さすがに最近は中国での接客態度は良くなっている。10年ほど前に上海の空港で係員の横柄な態度に腹が立ち、これが外国からの客に接する態度かと思ったものだが、最近はとても良くなった。しかし、公務員の庶民に対する態度には相変わらずのものがあるようで、だから、最初に書いたような警官の横暴とそれに対する庶民の反発もあるのだろう。庶民の反発、反感は権力の末端である警官だけに留まらず、権力そのもののあり方に向かうものだ。
「為人民服務」は「為人民・服務(人民のために奉仕する)」と読むのではなく、「為人・民服務」と読み、「人(=共産党のお役人)のために民は奉仕する」意味だというパロディーがあるそうだ。中国人はスローガン好きだが、実態と乖離した美辞麗句を掲げていても、人民の心の離反を招くだけだろう。このあたりを政府や党の指導者は自覚しているのだろうかと疑問に思う。