弟からのメールに次女が結婚したとあった。二人の希望で結婚式はせず、双方の家族で会食する程度にしたそうだ。最近は「ジミ婚」が多いらしいから、それも良いだろう。私の結婚式も双方の両親と共に大阪の豊国(ほうこく)神社の社殿で挙げ、後は父が予約した料亭で会食しただけだった。
時代劇などの結婚式の場面では、威儀をただした仲人の男性が謡曲「高砂」を朗々と謡う。「高砂」は、夫婦愛と長寿を愛で、人世を言祝ぐめでたい能であり、このような場面で人口に膾炙しているものと思われがちだが、実際に全曲をすらすら言える人は今では少ないだろうし、私も出だしの「高砂や この浦舟に 帆を上げて」の後は断片的にしか頭に入っていない。全曲はつぎのようなものだ。
高砂や この浦舟に 帆を上げて この浦舟に帆を上げて 月もろともに 出汐の 波の淡路の島影や遠く鳴尾の沖過ぎて はやすみのえに 着きにけり はやすみのえに 着きにけり
四海波静かにて 国も治まる時つ風 枝を鳴らさぬ 御代なれや
あひに相生の松こそ めでたかれ げにや仰ぎても 事も疎(おろ)かや かかる代に住める民とて豊かなる 君の恵みぞ ありがたき 君の恵みぞ ありがたき
最近の結婚披露宴では新郎新婦が、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」やワーグナーの「婚礼の合唱」のメロディーをBGMにして入場してくるような場(最近はポップスのようなものが多いらしいが)では、「高砂」は似合わないだろう。私は現役時代にはずいぶん多くの教え子たちの結婚式に出たが、仲人だけでなく来賓が謡ったのも聞いた記憶がないし、私も仲人は務めたが、もちろん謡ったことはない。
http://www.youtube.com/watch?v=McUTJkHfUrM
http://www.youtube.com/watch?v=vgRdpuJZSzM
高校を卒業する少し前に、親しい仲間が校内の一部屋に何人か集まって、結婚祝歌を歌った。将来結婚することはあっても結婚式に出られるかは分からないから、今祝っておこうということだった。歌の作詞者も作曲者も記憶がないが、歌詞は次のようなものだ。
喜びに溢れて微笑む日よ
我らに開く幸いの花
心には望みの生まれ出でて今や
我らを招く幸いのあした
今日交わす誓いを永く胸に秘め
睦みて変わらじ遙かなる日まで
一緒に歌った仲間は皆結婚したが、何人かはもういない。そのような友を想いながら、皆で歌った60年前のあの日の情景を今も懐かしく思い出す。