セミの季節は過ぎ去ったが、気のせいか今年はクマゼミの鳴き声をあまりあまり聞かなかったように思う。幼い頃、神戸の須磨にいたが、夏になると庭の青桐の木に止まって、まず一声シャアッと鳴き、そのあとシャッシャッシャと大きな声で鳴く。最高潮になるとセンセンセンセン・・・とも聞こえる。クマゼミは幼い私には憧れのセミで、ベランダから近寄って捕虫網で捕らえようとするのだが、すばしこくていつもシャッと言って飛び去ってしまうから、一度も成功したことがない。その後東京に移ったが東京にはクマゼミはいなかった。最近では分布地は北上して、東京など関東でも見られるそうだ。
クマゼミは日本特産の大型のセミで体長は60~70ミリある、ヤエヤマクマゼミに次いで大きいという。頭が大きく黒くいかつい体つきで、子どもには魅力のあるセミだった。近頃この辺りで見るクマゼミは子どもの頃見たよりも少し小さくなっているような気がする。このクマゼミ、思いがけないことで害虫としてその扱いに悩まされていた。
インタネットより
クマゼミのメスは7月から9月にかけて直径約1ミリの先端が鋭い産卵管を木の枝に突き刺して卵を産み付ける。ところが、NTT西日本(大阪市)の光ファイバー通信の家庭用ケーブルにも産卵し断線させる被害が平成17年ごろから多発していたという。光ファイバー通信の幹線から枝分かれした家庭用ケーブルを、枯れ枝と勘違いして産卵するから、ケーブル内の心線を傷つけ、通信を遮断する。光ケーブルの通信線がそのようにデリケートなものだとは知らなかったが、この被害は平成11年に初めて確認された。そのニュースは聞いたことがある。ピーク時の20年には約2千件の被害があったというから馬鹿にならない。
NTT西日本提供
それではケーブルの皮膜を厚く硬くすればいいではないかと言うと、そんなに簡単なことではないようで、太く硬くなりすぎると施設工事の障害になるらしいから微妙なものだ。
NTT西日本では16年と18年に、クマゼミ対策で改良したケーブルを導入して被害を減らすことに成功したが、さらに3代目のケーブルの開発に着手し、21年に開発した最新型のケーブルでは、3年連続で被害がゼロになった。そのためには研究員達はクマゼミの生態を分析するために、大阪市内で毎日約60匹を捕獲して、実際にケーブルに産卵する様子を観察したという。自然の産卵環境を維持するために、研究員達は酷暑の中、冷房もつけずに実験を続けてきたそうで、顕微鏡で0.1ミリメートル単位の刺し傷の深さを分析するという根気の要る作業を続けた。その結果、ケーブルを覆うプラスチック系被膜を、産卵管でも傷つきにくい硬さに改良したうえ、被膜の最薄部の厚さを約0.4ミリに保つことで、産卵管がケーブルの心線に達しない最新型のケーブルを完成させた。
私たちが気が付かないところで、このような緻密な努力が続けられたことには頭が下がる思いがする。これがプロの仕事と言うものだろう。