蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

あるキング

2009年09月26日 | 本の感想
あるキング(伊坂幸太郎 徳間書店)

地方球団の熱心な(というよりファナティックな)ファンである両親の子、山田王求は両親の熱心(すぎる)な導きで野球の技術向上一筋に生き、打撃の天才となる。しかし父親が(王求をいじめた子を)殺したことが露見して高校を中退し、テストで地方球団になんとかもぐりこみ、驚異的な成績をあげるが・・・

オビの紹介文で本書を「ファンタジー」と紹介している。
それなりにリアリティをもって少年野球からプロまでの過程が描かれるが、王求がプロでも打つたびホームランだったりするのは夢物語のような感じだ。
また、マクベス風の3人の魔女が頻出したり、王求が(事実上)殺した、友人の父親が怪物となって現れたりと、ところどころ現実世界が綻んでいる。
だからスポーツ小説でもないし、殺人は起こるけどミステリでもないし、まあ、ファンタジー、幻想小説くらいしかいいようがないのかも知れない。

そんな(ある意味)わけのわからない小説でも、著者の手にかかると読み終わるのが惜しいほどの出来栄えとなるのは、そういう先入観のせいなのか、著者の力量なのか。

ちょっとヘンテコなキャラクター設定(偉人伝が好きな同級生とか、バッティングセンターの管理人のおじさんの暇つぶしはシェイクスピアを読むこととアニメ雑誌とか、王求が野球以外に唯一興味を持つのがセックスだとか、地方球団のオーナーのドラ息子がやたらギャンブルが強いとか)とか、誰でも知っているわけではないけど、知っていてもおかしくなさそうな名言の引用(本書ではシェイクスピア作品の一節を言い換えしている)とか、が、うまいと思う。

こういうのは著者の作品のパターンではあって、ファンとしてはそういう十八番が現れるのを期待しているから良く見えるのかもしれない。
コメント
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