蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

犬身

2011年03月10日 | 本の感想
犬身(松浦理英子 朝日文庫)

犬が好きで、犬になってやさしい人に飼われて甘えたいという願望を持つ主人公は、いきつけのバーのマスターと、死後の魂を提供する事と引き換えに犬にしてもらうという契約を結ぶ。
そして願望通り、梓という陶芸家に飼われることになる。

本書は、そういったファンタジー的な設定のもと、梓の母、兄との葛藤やその一家(ホテルを経営する地方の名家)の盛衰を主題として描いている。
と、いうと、わりとおっとりした(「我輩は猫である」みたいな)ストーリーが期待されるが、中心的なテーマは梓と兄の近親相姦からもたらされるいざこざで、そこに兄びいきで(実母なのに)姑のようなイメージの母親が絡んで、醜く見苦しい争いが(文庫の解説者の言葉を借りると)「あられもなく」繰り広げられる。
読んでいると兄や母の悪意やいやらしさにあてられそうになってくるほど。

「本の雑誌」の「おすすめ文庫王国2010-2011」で第一位だったのだけれど、上記のような内容なので、これを一位にするのは、かなり勇気がいったのではないかと思われる。
むしろ「本の雑誌」ならではのセレクションというべきなのかもしれないが。

テーマは暗いがリーダビリティは高く、特に下巻は一気読みできる面白さだった。

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