蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

海軍めしたき総決算

2015年08月08日 | 本の感想
海軍めしたき総決算(高橋孟 新潮文庫)

海軍めしたき物語」の続編。

主計兵(炊事担当)として戦艦などに乗務していた著者は、乗艦が沈没して海を漂い、フカに咬まれたところを救助される。本書は救助された後の、ベトナムの病院生活や帰国して九州の飛行訓練所での勤務、敗戦後徒歩で四国まで帰郷した休暇などを記したエッセイ。

・主計兵は給食や備品管理など会社でいうと総務・庶務部的な役割の兵科。当然、役得(食事量が多いとか)はあるし、戦闘をするわけではないので死傷するリスクは低く、羨望の部署なのではないかと思うのだが、徴兵された著者は第二希望(兵科を希望できるものだったんだなあ)であっさり配属されている。華々しさはないので、あまり人気がなかったのだろうか。
「軍隊は運隊」などと言われるように、配属部署や赴任地域によっては軍隊生活は天国にも地獄にもなったのだろう。まあ、軍隊に限らず人生全体がそうなのかもしれないが。戦後の日本に生まれてそこでずっと暮らした私など、人類全体からみると(生活環境という意味では)ものすごい好運に恵まれていることになる。

・死地をくぐると精神的に強くなって、大抵のことに動じなくなるのでは?という思い込みが(私には)ある。日経の「私の履歴書」などでも戦場で悲惨な体験をして「あとはお釣りの人生だ」てな感じで思い切った経営上の決断ができた、なんて主旨のものがよくあったような・・・この手のもので一番強烈だったのは中内巧さんの体験談だった。最近は戦争経験者が少なくなって「私の履歴書」で兵士としての体験が書かれることはめったになくなった。
著者も乗艦が沈んで漂流するという、極め付きの死地をしのいできたのだが、九州の基地勤務の時には敵襲を受けると(部下をほったらかしにして)先頭で逃げた、なんてことが正直に書かれていて、どんな経験をしても、怖いものは怖いのだな、と、少し考えが変わった。

・敗戦後、数名で馬車を伴って鹿児島から宮崎北部まで徒歩で帰郷する場面がある。主計科で備蓄していた物資(砂糖など)と引換に沿道の農家で宿泊したりする珍道中?で、ここが本書で一番面白かった
リーダー格の人の準備の良さはすごくて、四国へ渡る漁船をチャーター?するために超貴重品の燃油まで馬車に積んでいたそうだ。こういう人はどんな仕事をしても軽くこなしてしまうんだろうな。

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