2015年11月3日の記事なので、他に新しい事が発表されているかもしれませんが、Ynさんがアイシングについて書いた記事を転載しておきます。 November 3, 2015
https://www.facebook.com/manabu.yoneyama.3/posts/630792520393603
昔からアイシングに対しては懐疑的で、実際に怪我や故障に対してアイシングしたことはありませんが、世間ではほとんど盲目的とも言えるぐらいアイシング信奉が強いように思います。近年の海外の文献では、アイシングに対して否定的な意見が主流を占めるようになってきていますが、国内ではスポーツ医学関連の専門家とも言えるような人たちでさえ、新しい知見を得ようとせずにアイシングを勧めている人がいることには疑問を感じます。アイシング擁護派の彼らがよく引用するRICEの提唱者Dr. Gabe Mirkin氏が、自身のRICE理論が適切ではなかったことを記事として昨年書いています。アイシングの効果の是非を論じるつもりはありませんが、周りで盲目的にアイシングをしている人たちがあまりにも多いので、簡単に記事を訳してみました。クライミングだけでなく激しいスポーツを日常的にしている人は一度読んでみることをお勧めします。。
【原文】
http://drmirkin.com/fitness/why-ice-delays-recovery.html
『なぜアイシングは治癒を遅らせるのか』
ベストセラーとなった著書『Sportsmedicine Book』を書いた時、私は運動競技における怪我の処置に対してRICE(Rest:安静, Ice:冷却, Compression:圧縮, Elevation:挙上)と名付けました。損傷した組織から引き起こされる痛みを和らげるのに役立つという理由で、アイシング(Ice)は、怪我や筋肉痛のための標準的な治療法となってきました。以来数十年に渡ってコーチたちは、私が作成したRICEガイドラインを使用してきましたが、どうやらIceおよび完全なRestは、治癒を助けるどころか、遅らせるかもしれないということがわかってきています。
最近の調査では、運動選手は非常に激しい練習を課されており、広範囲に及ぶ筋肉痛からなる深刻な筋肉ダメージを発症しています。アイシングによって腫れを遅らせることはできても、アイシングが筋肉損傷からの治癒を早めることはありません(The American Journal of Sports Medicine, June 2013 )。22の科学論文の要約からわかることは、アイシング(Ice)と圧迫(Compression)の組み合わせが、圧迫を単独で使用した場合よりも治癒を促進したというエビデンスがほとんど存在しないということです。もっとも、アイシングに加えた運動が、足首の捻挫の治癒にわずかに役立つかもしれないとのことですが(The American Journal of Sports Medicine, January, 2004;32(1):251-261)
【治癒には炎症が必要】
非常に激しい練習による外傷や筋肉痛によって組織に損傷を与えたとき、体は 自己の免疫系を用いてそれを治癒しますが、それは病原菌を殺すのに用いるのと同じ生物学的なメカニズムであり、これは「炎症」と呼ばれています。病原菌が体内に侵入した際、免疫系はその病原菌を殺すために、感染した場所に細胞とタンパク質を送り込みます。筋肉とその他の組織が損傷を受けた際にも同様に、治癒を促進するために免疫系は損傷組織に対して炎症細胞を送り込みます。感染と組織の損傷の両者に対する反応は同じであるということです。炎症細胞は治癒を促進するため、損傷組織に対して駆けつけることになります(Journal of American Academy of Orthopedic Surgeons, Vol 7, No 5, 1999 )。IGF-1(Insulin-like Growth Factor)と呼ばれるホルモンから損傷組織に対して分泌されるこのマクロファージと呼ばれる炎症細胞は、筋肉やそれ以外の受傷部分を治癒するのに役立ちます。しかしながら、腫れを軽減するためにアイシングすることは、実際のところ、IGF-1の分泌を妨げることによって 治癒を遅らせることになります。
ある研究論文の著者は2つの実験用マウスのグループを使用しました。1つのグループは遺伝子操作されており、マウスたちは怪我に対して通常望ましい炎症反応を生じることができません。もう一方のグループは普通に炎症反応を生じることができました。そして科学者たちは筋肉に対して損傷を与えるために塩化バリウムを注入しました。望ましい免疫反応を生じさせることのできないマウスの筋肉は回復せず、一方で普通の免疫機能を持ったマウスは速やかに回復しました。回復したマウスには、損傷した筋肉部分に極めて大量のIGF-1が確認されましたが、回復しなかったマウスにはほとんどIGF-1が見つかりませんでした(Federation of American Societies for Experimental Biology, November 2010)。
【損傷組織に対して治癒に必要な細胞を送り込むことをアイシングは妨げる】
損傷組織に対してアイシングすることは、損傷箇所付近の血管を収縮させ、治癒に必要な炎症細胞を届ける血流を遮断させることになります(Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, published online Feb 23, 2014)。アイシング後、数時間が経過しても血管は再び拡がることはありません。この血流の減少は組織の壊死を招く可能性があり、永久的な神経の損傷さえ招くかもしれません。
【炎症を抑えるあらゆる行為は治癒をも遅らせる】
免疫反応を抑えるどのような行為も、同時に筋肉の治癒をも遅らせることになるでしょう。それゆえ以下に挙げるものは治癒を遅らせることになります。
・ コーチゾンを含む薬品
・ イブプロフェンのような非ステロイド系の抗炎症薬など、ほぼすべての鎮痛剤
・ 関節炎や癌、乾癬などの治療によく使われる免疫抑制剤
・ コールド・パックやアイシング
・ 怪我に対して免疫反応をブロックするあらゆるもの
【アイシングは強度、スピード、耐久力、協調性を減少させる】
アイシングは、怪我をした運動選手が試合に戻ることを助けるための短期的な処置として頻繁に使われてきました。アイシングは痛みを軽減するのに役立つかもしれませんが、運動選手の強さ、スピード、耐久力、協調性などを妨げることになります(Sports Med, Nov 28, 2011 )。この論文では、アイシングの影響について調べた35件の研究を取り上げています。ほとんどの研究では20分以上アイシングを行い、そしてその大部分において、アイシング直後に強度、スピード、パワー、敏捷性のランニング能力に減少が見られたと報告しています。腫れを抑えるためにアイシングを完全に終えたら(5分未満にすべき)、続いて競技に戻る前に斬新的に暖めることをこの著者は推奨しています。
【推奨】
怪我をしたなら、即座に練習をやめることです。痛みが酷く、動かすことができな場合や、意識が混乱していたり瞬間的でも意識を失ったのであれば、緊急の医療手当てが必要かどうか検査を受けてください。開放創であれば、傷口を清潔に保ち、検査を受けてください。可能であれば、重力を利用して腫れを最小限に抑えるため、傷害部分を挙上するようにしてください。スポーツ傷害の専門家であれば、骨が折れていないか、そして動かすことで損傷が酷くならないかを判断しなければなりません。筋肉もしくはそれ以外の軟組織に限定された怪我なら、医師やトレーナー、コーチは圧縮包帯で巻いてもかまいません。アイシングは怪我の痛みを和らげるため、受傷後すぐに短い時間であれば冷やしてもいいでしょう。アイシングは最大でも10分とし、20分は氷を外し、その後1、2回、10分間のアイシングを適用します。怪我をしてから6時間以上経過した後にアイシングする理由はありません。
怪我が深刻である場合、リハビリにおいては医師のアドバイスに従ってください。軽い怪我であれば、通常は翌日にはリハビリを開始することができます。その動作によって痛みが増したり不快感がないのであれば、怪我をした部分を動かして使うことができます。痛みを感じることなく動かせるなら、即座に運動を再開してください。