忠治が愛した4人の女 (73)
第五章 誕生・国定一家 ⑦
「じゃいったい、俺たちはどうしたらいいんでぇ!」
文蔵が、懐から手裏剣を取り出す。
いつもの柱に向かって投げつけようとするが、ふと、思いとどまる。
「いまは他にまだ、やることが有るという意味か?」文蔵が、円蔵を見つめる。
「さすが代貸。よくぞ気が付いた。
まずは俺たちのただひとつの賭場、伊勢屋に客を集めることからはじめる。
この商売。なにをさておいても金がいる。
その金を産みだしてくれるのが、賭場だ。
ここが寂れていたんじゃ、まったくもって話にならねぇ。
任せてくれ。俺に、とっておきの秘策が有る」
「おっ、とっておきの秘策が有るってか。面白そうだな。
何でぇ、早く聞かせろ、」
代貸になったばかりの文蔵が、身体を乗り出す。
黙って聞いていた子分たちも、すべての神経を耳に集中する。
「目先の金儲けだけを考えちゃいけねぇ。
あっしら渡世人は、堅気の衆におマンマを食わせてもらってる。
堅気の衆を大切にすれば、客は自然に増えてくる」
「あたりめえだ。客ならいままでだって、大切にしてきた。
だがよ。いままでウチの賭場へ来ていた客は、ぜんぶ伊三郎の方へ流れちまった。
見た通りの、閑古鳥が鳴いている落ち目の賭場だ。
落ち目の賭場じゃ、稼ぎはすくねぇ。
だからみんな、賑わっている伊三郎の方へ足を運んじまうんだ」
「まぁ待て。策はある。
いままで5分デラだった手数料を、4分デラにするんだ」
「なんだと。てら銭を、4分デラにするだと?」文蔵が呆れる。
勝負に勝った客から5分(5パーセント)のテラ銭をもらうことを、5分デラという。
博奕は幕府によって禁止されている。
そのため博徒は、絶対に安全な場所で賭場を開く。
保証料として勝った客から、テラ銭をもらうことでしのぎにしている。
絹市が立つ日は、大金が動く。
その日だけで4、50両の掛け金が動く。
5分デラなら、1日で2両から2両5分の稼ぎになる。
市は月に6回立つ。月に直せば、12両をこえる稼ぎになる。
しかし。12両が稼げたのは、百々一家が元気だったころの話。
いまは客が半減している。とうぜん稼ぎも半分以下だ。
そんな中。4分デラにすれば、稼ぎがさらに減ってしまう。
だが円蔵は自信たっぷりに胸を張る。
「忠次親分の賭場は四分デラだと噂になれば、客は自然と集まって来る」
「客は来るようになるだろうが、いかんせん、それじゃ稼ぎが少なすぎる・・・」
文蔵が「駄目だ。それじゃあ」と首を振る。
となりで聞いていた民五郎も、「そうだよなぁ」と文蔵に同意する。
しかし。「話は最後まで聞け」と円蔵がニヤリと笑う。
「言っただろう。目先のことばかりを考えるんじゃねぇって。
たしかに賭場が一ヶ所だけじゃたかが知れている。
だがな。これが10ヵ所、20ヵ所と増えていけば、話はまったく別になる。
テラ銭の1分くれぇ、どうってことはなくなる」
「10ヵ所と20ヵ所と賭場が増えていく・・・
たしかにそいつはすげえ話だ。
そうなりゃ確かに、4分デラでも十分に稼げるようになる!」
「その通りだ。だから、おめえらの力で賭場をひとつづつ増やしていくんだ。
百々一家の二代目・忠次親分を、天下の大親分に持ち上げる。
だが、四分デラにしただけじゃ繁盛するとは言い切れねぇ。
実はな。客を呼び戻すためのもうひとつの、とっておきの秘策が有る」
「えっ、とっておきの秘策がもう、ひとつある?」
全員の目がいっせいに、円蔵に集まる。
(74)へつづく
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第五章 誕生・国定一家 ⑦
「じゃいったい、俺たちはどうしたらいいんでぇ!」
文蔵が、懐から手裏剣を取り出す。
いつもの柱に向かって投げつけようとするが、ふと、思いとどまる。
「いまは他にまだ、やることが有るという意味か?」文蔵が、円蔵を見つめる。
「さすが代貸。よくぞ気が付いた。
まずは俺たちのただひとつの賭場、伊勢屋に客を集めることからはじめる。
この商売。なにをさておいても金がいる。
その金を産みだしてくれるのが、賭場だ。
ここが寂れていたんじゃ、まったくもって話にならねぇ。
任せてくれ。俺に、とっておきの秘策が有る」
「おっ、とっておきの秘策が有るってか。面白そうだな。
何でぇ、早く聞かせろ、」
代貸になったばかりの文蔵が、身体を乗り出す。
黙って聞いていた子分たちも、すべての神経を耳に集中する。
「目先の金儲けだけを考えちゃいけねぇ。
あっしら渡世人は、堅気の衆におマンマを食わせてもらってる。
堅気の衆を大切にすれば、客は自然に増えてくる」
「あたりめえだ。客ならいままでだって、大切にしてきた。
だがよ。いままでウチの賭場へ来ていた客は、ぜんぶ伊三郎の方へ流れちまった。
見た通りの、閑古鳥が鳴いている落ち目の賭場だ。
落ち目の賭場じゃ、稼ぎはすくねぇ。
だからみんな、賑わっている伊三郎の方へ足を運んじまうんだ」
「まぁ待て。策はある。
いままで5分デラだった手数料を、4分デラにするんだ」
「なんだと。てら銭を、4分デラにするだと?」文蔵が呆れる。
勝負に勝った客から5分(5パーセント)のテラ銭をもらうことを、5分デラという。
博奕は幕府によって禁止されている。
そのため博徒は、絶対に安全な場所で賭場を開く。
保証料として勝った客から、テラ銭をもらうことでしのぎにしている。
絹市が立つ日は、大金が動く。
その日だけで4、50両の掛け金が動く。
5分デラなら、1日で2両から2両5分の稼ぎになる。
市は月に6回立つ。月に直せば、12両をこえる稼ぎになる。
しかし。12両が稼げたのは、百々一家が元気だったころの話。
いまは客が半減している。とうぜん稼ぎも半分以下だ。
そんな中。4分デラにすれば、稼ぎがさらに減ってしまう。
だが円蔵は自信たっぷりに胸を張る。
「忠次親分の賭場は四分デラだと噂になれば、客は自然と集まって来る」
「客は来るようになるだろうが、いかんせん、それじゃ稼ぎが少なすぎる・・・」
文蔵が「駄目だ。それじゃあ」と首を振る。
となりで聞いていた民五郎も、「そうだよなぁ」と文蔵に同意する。
しかし。「話は最後まで聞け」と円蔵がニヤリと笑う。
「言っただろう。目先のことばかりを考えるんじゃねぇって。
たしかに賭場が一ヶ所だけじゃたかが知れている。
だがな。これが10ヵ所、20ヵ所と増えていけば、話はまったく別になる。
テラ銭の1分くれぇ、どうってことはなくなる」
「10ヵ所と20ヵ所と賭場が増えていく・・・
たしかにそいつはすげえ話だ。
そうなりゃ確かに、4分デラでも十分に稼げるようになる!」
「その通りだ。だから、おめえらの力で賭場をひとつづつ増やしていくんだ。
百々一家の二代目・忠次親分を、天下の大親分に持ち上げる。
だが、四分デラにしただけじゃ繁盛するとは言い切れねぇ。
実はな。客を呼び戻すためのもうひとつの、とっておきの秘策が有る」
「えっ、とっておきの秘策がもう、ひとつある?」
全員の目がいっせいに、円蔵に集まる。
(74)へつづく
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