落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (73)       第五章 誕生・国定一家 ⑦

2016-10-28 16:50:19 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (73)
      第五章 誕生・国定一家 ⑦




 「じゃいったい、俺たちはどうしたらいいんでぇ!」


 文蔵が、懐から手裏剣を取り出す。
いつもの柱に向かって投げつけようとするが、ふと、思いとどまる。
「いまは他にまだ、やることが有るという意味か?」文蔵が、円蔵を見つめる。


 「さすが代貸。よくぞ気が付いた。
 まずは俺たちのただひとつの賭場、伊勢屋に客を集めることからはじめる。
 この商売。なにをさておいても金がいる。
 その金を産みだしてくれるのが、賭場だ。
 ここが寂れていたんじゃ、まったくもって話にならねぇ。
 任せてくれ。俺に、とっておきの秘策が有る」



 「おっ、とっておきの秘策が有るってか。面白そうだな。
 何でぇ、早く聞かせろ、」



 代貸になったばかりの文蔵が、身体を乗り出す。
黙って聞いていた子分たちも、すべての神経を耳に集中する。


 「目先の金儲けだけを考えちゃいけねぇ。
 あっしら渡世人は、堅気の衆におマンマを食わせてもらってる。
 堅気の衆を大切にすれば、客は自然に増えてくる」


 「あたりめえだ。客ならいままでだって、大切にしてきた。
 だがよ。いままでウチの賭場へ来ていた客は、ぜんぶ伊三郎の方へ流れちまった。
 見た通りの、閑古鳥が鳴いている落ち目の賭場だ。
 落ち目の賭場じゃ、稼ぎはすくねぇ。
 だからみんな、賑わっている伊三郎の方へ足を運んじまうんだ」


 「まぁ待て。策はある。
 いままで5分デラだった手数料を、4分デラにするんだ」


 「なんだと。てら銭を、4分デラにするだと?」文蔵が呆れる。
勝負に勝った客から5分(5パーセント)のテラ銭をもらうことを、5分デラという。
博奕は幕府によって禁止されている。
そのため博徒は、絶対に安全な場所で賭場を開く。
保証料として勝った客から、テラ銭をもらうことでしのぎにしている。



 絹市が立つ日は、大金が動く。
その日だけで4、50両の掛け金が動く。
5分デラなら、1日で2両から2両5分の稼ぎになる。
市は月に6回立つ。月に直せば、12両をこえる稼ぎになる。


 しかし。12両が稼げたのは、百々一家が元気だったころの話。
いまは客が半減している。とうぜん稼ぎも半分以下だ。
そんな中。4分デラにすれば、稼ぎがさらに減ってしまう。
だが円蔵は自信たっぷりに胸を張る。


 「忠次親分の賭場は四分デラだと噂になれば、客は自然と集まって来る」



 「客は来るようになるだろうが、いかんせん、それじゃ稼ぎが少なすぎる・・・」
文蔵が「駄目だ。それじゃあ」と首を振る。
となりで聞いていた民五郎も、「そうだよなぁ」と文蔵に同意する。
しかし。「話は最後まで聞け」と円蔵がニヤリと笑う。


 「言っただろう。目先のことばかりを考えるんじゃねぇって。
 たしかに賭場が一ヶ所だけじゃたかが知れている。
 だがな。これが10ヵ所、20ヵ所と増えていけば、話はまったく別になる。
 テラ銭の1分くれぇ、どうってことはなくなる」


 「10ヵ所と20ヵ所と賭場が増えていく・・・
 たしかにそいつはすげえ話だ。
 そうなりゃ確かに、4分デラでも十分に稼げるようになる!」



 「その通りだ。だから、おめえらの力で賭場をひとつづつ増やしていくんだ。
 百々一家の二代目・忠次親分を、天下の大親分に持ち上げる。
 だが、四分デラにしただけじゃ繁盛するとは言い切れねぇ。
 実はな。客を呼び戻すためのもうひとつの、とっておきの秘策が有る」

 
 「えっ、とっておきの秘策がもう、ひとつある?」
全員の目がいっせいに、円蔵に集まる。


(74)へつづく

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