忠治が愛した4人の女 (74)
第五章 誕生・国定一家 ⑧

「おなごに壺を振らせるんだ」
円蔵の提案に、「ええ~!」と一同の目が真ん丸になる。
女渡世人の噂はときどき聞く。
そしてそのほとんどが、なぜか別嬪だ。
目の覚めるような別嬪が、片膝を立てて勝負の壺を振る。
想像するだけでも壮観だ。
女壺振りには、男には真似できない芸当が有る。
勝負が白熱してくる。当然、警戒心が薄れてきて、女渡世人の膝がゆるむ。
男どもの視線が、女渡世人の股座(またぐら)へ集中する。
こうなるともう勝負どころではなくなってくる。
いいところを見せようと、気前よく、言われるままに駒を張る。
あげくにぜんぶ取られてしまう。
「女渡世人や、大年増なら見たことは有る。
だがよ。目の覚めるような壺振りの別嬪なんぞ、俺は見たことがねぇ。
こんな片田舎には居ないだろう。別嬪の壺振りなんか・・・」
「いや。居るんだ、それが。
初めてみた時は俺も驚いたが、なかなか良い女だった」
円蔵が自信たっぷりに、ニヤリと笑う。
居ると聞いた瞬間、文蔵が目の色を変えて身体を乗り出す。
「ホントかよ!。本当に居るのか!、別嬪の壺振りが!。
そいつは願ってもねぇ好都合だ。で、そいつはいったいどこの何者なんだ!」
「弁天のおりんという女でな、こいつは片膝を立てて壺を振る。
それだけじゃねぇ。
惜しげもなく、片肌を脱ぐ。
白い肌をさらして壺を振る姿は、男ならだれでもしびれる。
あ・・・残念ながら裸じゃねぇ。胸にはサラシを巻いている」
一同の脳裏に、片肌を脱ぎ、膝をたてて壺を振る女の姿があらわれる。
そんな女が賭場で壺を振ったら、おおきな人気を集めるだろう。
「たまらねぇぜ」と、文蔵がぺろりとくちびるを舐める。
「だがよ。どこにいるんでぇ。その女渡世人は?」
「最後に見かけたのは、信州の松本だ。
この女が壺を振れば、賭場が大入り満員になることはまず間違いない。
なにしろ。俺が惚れこんじまったくらいの女だからな」
「なにっ。おまえさんの女か。弁天のおりんという渡世人は!」
「いや。残念ながらまだそこまではいってねぇ。
おれがただ一方的に、おりんに熱をあげてるだけだ。
しかしいい機会だ。なんとか口説いて、おりんを上州へ連れてくる」
「なるほどな。円蔵さんにしてみれば一石二鳥のうまい話というわけだ。
じゃ、おりんさんの件は円蔵さんに任せて、留守のあいだ、
俺たちは何をすればいい?」
「伊三郎をやるのは、後まわしだ。
まずはなわばりをひろげていく必要がある。
久宮一家がのさばっている国定と田部井村を、百々一家の縄張りにしょう。
国定は、忠治親分が生まれた村だ。
大義名分はじゅうぶんに、俺たちの側に有る」
「大義名分が必要なのか、やっぱり?」
「義のねぇ戦いは、堅気の衆たちの反発を招く。
おれらが動くときは、いつでも、堅気の衆に支持されなくちゃいけねぇ。
俺たちは、堅気の衆にメシを食わせてもらってんだぜ」
「百々一家は、堅気の衆を大事にするのか。なるほど。
十手を振りかざして、悪事ばかりを働いている腹黒い伊三郎とは、だいぶ違うな」
「そうよ。義に生きた越後の上杉謙信と同んなじだ。
民衆の支持があれば、取締役の八州様も幕府も、まったくもって怖くねぇ。
義を重んじて、民衆を守る。
これが百々一家の、あたらしい生き方でぇ!」
(75)へつづく
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第五章 誕生・国定一家 ⑧

「おなごに壺を振らせるんだ」
円蔵の提案に、「ええ~!」と一同の目が真ん丸になる。
女渡世人の噂はときどき聞く。
そしてそのほとんどが、なぜか別嬪だ。
目の覚めるような別嬪が、片膝を立てて勝負の壺を振る。
想像するだけでも壮観だ。
女壺振りには、男には真似できない芸当が有る。
勝負が白熱してくる。当然、警戒心が薄れてきて、女渡世人の膝がゆるむ。
男どもの視線が、女渡世人の股座(またぐら)へ集中する。
こうなるともう勝負どころではなくなってくる。
いいところを見せようと、気前よく、言われるままに駒を張る。
あげくにぜんぶ取られてしまう。
「女渡世人や、大年増なら見たことは有る。
だがよ。目の覚めるような壺振りの別嬪なんぞ、俺は見たことがねぇ。
こんな片田舎には居ないだろう。別嬪の壺振りなんか・・・」
「いや。居るんだ、それが。
初めてみた時は俺も驚いたが、なかなか良い女だった」
円蔵が自信たっぷりに、ニヤリと笑う。
居ると聞いた瞬間、文蔵が目の色を変えて身体を乗り出す。
「ホントかよ!。本当に居るのか!、別嬪の壺振りが!。
そいつは願ってもねぇ好都合だ。で、そいつはいったいどこの何者なんだ!」
「弁天のおりんという女でな、こいつは片膝を立てて壺を振る。
それだけじゃねぇ。
惜しげもなく、片肌を脱ぐ。
白い肌をさらして壺を振る姿は、男ならだれでもしびれる。
あ・・・残念ながら裸じゃねぇ。胸にはサラシを巻いている」
一同の脳裏に、片肌を脱ぎ、膝をたてて壺を振る女の姿があらわれる。
そんな女が賭場で壺を振ったら、おおきな人気を集めるだろう。
「たまらねぇぜ」と、文蔵がぺろりとくちびるを舐める。
「だがよ。どこにいるんでぇ。その女渡世人は?」
「最後に見かけたのは、信州の松本だ。
この女が壺を振れば、賭場が大入り満員になることはまず間違いない。
なにしろ。俺が惚れこんじまったくらいの女だからな」
「なにっ。おまえさんの女か。弁天のおりんという渡世人は!」
「いや。残念ながらまだそこまではいってねぇ。
おれがただ一方的に、おりんに熱をあげてるだけだ。
しかしいい機会だ。なんとか口説いて、おりんを上州へ連れてくる」
「なるほどな。円蔵さんにしてみれば一石二鳥のうまい話というわけだ。
じゃ、おりんさんの件は円蔵さんに任せて、留守のあいだ、
俺たちは何をすればいい?」
「伊三郎をやるのは、後まわしだ。
まずはなわばりをひろげていく必要がある。
久宮一家がのさばっている国定と田部井村を、百々一家の縄張りにしょう。
国定は、忠治親分が生まれた村だ。
大義名分はじゅうぶんに、俺たちの側に有る」
「大義名分が必要なのか、やっぱり?」
「義のねぇ戦いは、堅気の衆たちの反発を招く。
おれらが動くときは、いつでも、堅気の衆に支持されなくちゃいけねぇ。
俺たちは、堅気の衆にメシを食わせてもらってんだぜ」
「百々一家は、堅気の衆を大事にするのか。なるほど。
十手を振りかざして、悪事ばかりを働いている腹黒い伊三郎とは、だいぶ違うな」
「そうよ。義に生きた越後の上杉謙信と同んなじだ。
民衆の支持があれば、取締役の八州様も幕府も、まったくもって怖くねぇ。
義を重んじて、民衆を守る。
これが百々一家の、あたらしい生き方でぇ!」
(75)へつづく
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