上野の国立西洋美術館で開催中の「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」展(~2018年1月28日まで)を見に行きました。
19世紀西洋美術における日本美術の影響、いわゆるジャポニスムについては3年前に世田谷美術館で大規模な展覧会を見ているので、今回はどうしようかな~と迷っていましたが、ドガの踊り子と北斎の力士のポーズを並べたポスターを見て、その愛らしさにひと目で惹かれ、やっぱり見に行こうと決めました。
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場所が上野なので混雑が心配でしたが、最初の展示室を抜けてからは比較的余裕があり、じっくり鑑賞することができました。今回も、西洋美術の作品と影響を与えたとされる北斎の作品が並べられ、ひと目で影響がわかるよう展示が工夫されていました。西洋美術220点と北斎の作品110点、絵画以外に彫刻、美術工芸もあり、至福の時間がすごせました。
(左)エドガー・ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」1894年
(右)葛飾北斎「北斎漫画」十一編 刊年不詳
力士のポーズから踊り子のポーズを発想するなんてすごい!と思いますが、そもそもこういう何気ないポーズを描くというのが、西洋絵画にはこれまでにない斬新なことだったようです。ピンクと緑は私も大好きな色の組合せですが、特にピンクの愛らしさに心を奪われました。展示室も同じローズピンクでした。
(左)メアリー・カサット「青い肘掛け椅子に座る少女」1878年
(右)葛飾北斎「北斎漫画」初編(部分) 1814年
北斎による影響以前は、絵に描かれる女の子はお行儀のよいポーズをとっていたそうです。リラックスした自然なポーズにリアリズムを感じました。メアリー・カサットはパリで活躍したアメリカ人画家で、浮世絵の影響を受け、女性の何気ない日常を数多く描きました。
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(左)ポール・ゴーギャン「三匹の子犬のいる静物」1888年
(右)葛飾北斎「三体画譜」1816年
ゴーギャンらしからぬ?愛らしい作品ですが、丸みを帯びた平面的な3匹の子犬は、北斎の影響と考えられています。
(左)クロード・モネ「陽を浴びるポプラ並木」1891年
(右)葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷」1830-33年
木々が作るリズム感は、北斎の影響とされています。木の間から見る風景というのも、それまでにはなかった描き方だったようです。
(左)ジョルジュ・スーラ「とがったオック岬、グランカン」1885年
(右)葛飾北斎「おしをくりはとうつうせんのづ」1804-07年頃
北斎の波と同じ構図で岬を描いています。近くで見ると点描の繊細さ、色の美しさに引き込まれました。
(左)カミーユ・クローデル「波」1897-1903年
(右)葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」1930-1833年頃
ロダンの恋人だった彫刻家カミーユ・クローデルも北斎の影響を受けていたのですね。このほか、やはり同じ「神奈川沖浪裏」にインスピレーションを受けて作曲されたドビュッシーの「海」の楽譜(表紙に神奈川沖浪裏の模写が描かれている)も展示されていて感激しました。
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他に印象に残ったのは、クリムトが北斎の春画の影響を受けていたということ。また北斎の影響によって、それまで西洋美術では宗教画に比べて各段に地位の低かった動植物画が注目されるようになったそうです。動植物をモチーフにしたエミール・ガレやドーム兄弟の美しいガラス工芸にもうっとりしました。
「冨嶽三十六景」に影響されたという、アンリ・リヴィエールの「エッフェル塔三十六景」も楽しかった! また北斎が富士山を様々な角度から描いたのに影響されて、セザンヌはサント=ヴィクトワール山を繰り返し描いたのだそうです。北斎の魅力に改めて気づかされた企画展でした。