梅雨入りして間もなくのこの日、雨の中、美術館をはしごしてきました。まずは上野の森美術館で開催中の「ミラクル エッシャー展」へ。(7月29日まで東京。のち大阪、福岡、愛媛に巡回予定)
エッシャー(1898-1972)は、数学的要素をもつ作品で知られるオランダの版画家です。特に錯視を利用して描かれた数々の”だまし絵”は、見たことのある方もいらっしゃると思います。本展はエッシャーの生誕120年を記念して開催されるもので、イスラエル博物館のエッシャーコレクションから約150点が展示されています。
上昇と下降 1960
私のエッシャーとの出会いはまだ小さい頃。ピアノの先生の家に、エッシャーや安野光雅さんの絵本が何冊もあって、順番を待つ間いつも飽きることなく見入っていました。おそらくこれが私が数学の不思議と出会った原点で、以来数学好きがずっと続いて結局大学でも専攻することになりました。そんな懐かしさもあって、楽しみにしていた展覧会です。
本展では、科学、聖書、風景、人物、広告、技法、反射、錯視の8つのキーワードをもとに、エッシャーの世界を紐解いています。風景の作品を見ると、のちの錯視の作品に生かされていることがよくわかります。緻密で、遠近や全体・各部分のバランスが正確で、まるで設計図のよう。だからバランスを意図的に崩して、トリックを仕込むことができるのでしょうね。
アトラニ、アマルフィ海岸 1931
エッシャーは地形の変化の乏しいオランダで育ったので、旅先、特にイタリアやスペインで出会った風景に惹かれたそうです。また、アルハンブラ宮殿で幾何学的な装飾模様に魅了され、研究を重ねて、のちに幾何学的パターンを取り入れた独自の表現を確立しました。
写像球体を持つ手(球面鏡の自画像) 1935
エッシャーは自画像を全部で12点残しているそうですが、本展で展示されていたのはどれもひとクセあっておもしろかったです。例えばこれは、球体に写った自分の姿が、周辺の空間の歪みとともに描かれています。エッシャーならではの自画像ですね。
表皮 1955
エッシャーは、木版、リノカット、リトグラフ、メゾティントと、いろいろな手法で版画作品を作りました。妻を描いたこの作品は、黒(輪郭)・ライトグレー(雲)・ダークグレー(雲)・赤の4版からなる木版画ですが、4つの版木もそれぞれ展示されていて、興味深く見ることができました。
爬虫類 1943
これも好きな作品です。エッシャーがよく用いたトカゲのモチーフが、2次元から3次元、また2次元へ。無限ループの4コマ漫画のように描かれているのがおもしろい。
昼と夜 1938
これも大好きな作品。左右対称の2つの村が昼と夜2つの世界にみごとに描き分けられていて、いつまで見ていても飽きることがありません。
メタモルフォーゼII 1939-40
そして本展のフィナーレを飾るのは、エッシャーの集大成ともいうべきメタモルフォーゼ。エッシャーおなじみのモチーフが、さまざまな姿に変容しながら一周しています。途中には、あのアマルフィの海岸も。エッシャー自身による貴重な初版プリントだそうです。