元KGBのスパイとして逮捕された80代の女性をモデルに書かれた、ジェニー・ルーニーの小説を映画化。ジュディ・デンチが主演し、若かりし頃を「キングスマン」シリーズのソフィ・クックソンが演じています。
実在したスパイをモデルにしているというのに興味津々。予告映像で見たソフィ・クックソンが魅力的で、楽しみにしていた作品です。
実をいうと、時々わずかな違和感を覚えることがあったのですが、後からかなりフィクションが入っていると知って納得しました。とはいえ、陰で歴史を動かした知られざる女性の半生は、ドラマティックで引き込まれました。
ケンブリッジ大学で物理を学ぶジョーンは、ユダヤ系ロシア人の友人ソニアの従弟で、政治活動家のレオ(トム・ヒューズ)と恋に落ちます。やがてジョーンは、指導教授に才能を見出され、核兵器開発のメンバーとして機密業務に携わるようになりますが
そんなジョーンに恋人のレオは、原爆に関する機密情報をロシア側に渡すよう要求します。母国を愛するジョーンはきっぱり断りますが、1945年に広島・長崎に原爆が投下され何十万人もの人々が亡くなったことに衝撃を受け、気持ちが揺らぎます...。
映画はドラマティックでおもしろかったのですが、ジョーンがどうして国家を裏切ってまで、機密情報の漏洩に手を染めたのか、動機としては少々弱いように感じてしまいました。
後から、モデルとなったメリタ・ノーウッドさんは、社会主義者の両親のもとで育ったばりばりの共産主義者だったと知り、それならばロシアのために彼女が機密情報を渡したことも自然のこととして納得できました。
一方、ジョーンは社会主義思想に染まっていたわけではないし、たまたま恋人がロシア人の政治活動家だったというだけ。しかもレオから情報提供を持ち掛けられた時は、すでに別れた後で新しい恋人がいたのです。
ジョーンの言い分は、アメリカが核を使うのを食い止めるためには、ロシアも核を持つべきだという考え。そうすれば力の均衡が保たれ、平和が守られるというものですが、私には後付けの詭弁のように感じてしまいました。
実際、その後に何十年も続いた冷戦は、必ずしも平和が続いていたわけではなく、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争と、代理戦争の連続だったのですから。
ただ、ジョーンは自分の秘密を生涯口にすることなく(それは彼女の輝やける青春時代の思い出に封をすることでもあった)信念を貫き通そうとした。その強さに私は心を打たれました。