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クスノキの番人/慈雨/エレクトリック/流浪の月 他

2023年08月19日 | 

本の感想をまとめて6作品、読んだ順に記録しておきます。

イアン・マキューアン(著) 村松潔(訳)「恋するアダム」

カズオ・イシグロ「クララとお日さま」平野啓一郎「本心」と同時期に出た AI を題材にした小説で、先に読んだ2作と比べるのを楽しみにしていました。マキューアンは「贖罪」(映画「つぐない」の原作) がとてもよかったこともあり、期待していました。

”クララ”と”本心”と同じく、本作でも AI を搭載した人間そっくりのロボットが登場します。でも、前2作のAIロボットがあくまで主人公の心の支え、お話相手という存在だったのに対し、本作のアダムは家事をこなし、人間と肉体関係をもち、投資にも手腕を発揮します。

主人公はアダムの投資能力を使って一儲けしようとしますが、アダムが慈善活動についても学習していたという展開に溜飲が下がりました。^^ ”クララ”と”本心”を読んだ時にも感じたことですが、AI が進化した先に人権は生じるだろうか、とふと考えさせられました。

佐藤厚志「荒地の家族」

2022年下半期芥川賞受賞作品。著者の佐藤厚志さんは、仙台の書店員さんということでも話題になりました。東日本大震災の被災地である東北の海辺の町で、震災によって多くを失った主人公と周囲の人々が、喪失感と困難の中で生きる姿が描かれています。

佐藤さんの、短い文を淡々とつなげていく文体が特徴的でした。震災のその後を描いていることもあって、全体的に重苦しく、救いのない展開で、正直言って読んで楽しい作品ではありません。読みながら何度も荒涼たる海辺の風景が頭に浮かびました。

ただ私は、登場人物たちの困難は、決して震災のせいだけとは言えないように思いました。それまで内在していた問題が、震災によって表面化したのではないでしょうか。私たちは、何かあればあっという間に壊れてしまう、危うい日常を生きているのかもしれません。

凪良ゆう「流浪の月」

2020年本屋大賞受賞作品。映画化もされた話題作です。読み始めは「そして、バトンは渡された」にどことなく似ていて、子どもにただただ甘い両親や、静かで優しい年上の男性、というヒロインを取り巻く人たちに、私はどうもなじめませんでした。

生育環境や経済的理由もあるかもしれませんが、男性に頼らなければ生きていけないヒロインに、最後まで共感できなかったです。でもお互いに理解しあえる相手と再会し、自分たちの居場所を見つけることができて、よかったのでしょうね。

千葉雅也「エレクトリック」

2023年上半期芥川賞候補作。哲学者でもある千葉雅也さんの自伝的小説で、1995年の宇都宮を舞台に、県随一の進学校に通う主人公の日常が描かれています。阪神大震災、オウム事件、Windows95の登場など、当時の社会背景にも触れられていますが

1995年は私にとっても節目となった年で、読みながら思うところがありましたし、進学校に通う高校生のメンタリティにもうなづける場面がありました。高校生といえば、まだまだ子どもでありながら、世界がほんの少しわかりはじめてくる年齢。

尊敬していた大人が急に小さく見えたり、不甲斐なさを感じることもあるでしょう。自分が大人になってから、ようやく大人の都合というものがわかってくる。そんなことを思い出しながら読みました。

柚月裕子「慈雨」

今回の6冊の中で最も読み応えがある小説でした。柚月裕子さんの小説を読むのは「盤上の向日葵」に続いて2作目ですが、重厚な人間ドラマと深い人物描写があって、近頃ではめずらしい筆力のある作家さんと尊敬しています。

本作は、警察官を定年退職した主人公とその妻が、四国88カ所の巡礼の旅を続けていく中で、主人公が過去に携わったある事件への悔恨と、現在まさに捜査が進んでいる別の事件が、内省的な物語となって進んでいきます。

2つの事件が、糾える縄のようにひとつに結びついていくクライマックスは、静かな興奮となって胸に迫りました。元主婦とは思えない、警察、検事、ヤクザなど、ハードな世界を描かれる柚月さん。映画は無理ですが「孤狼の血」はいつか必ず読みたいです。

東野圭吾「クスノキの番人」

夏風邪で週末寝込んでいた時に、夫が貸してくれた本。前にも同じようなことがありました。東野さんにはめずらしく、殺人事件の起こらない小説です。最初のうちは「念を授ける」とか、非科学的でくだらないなーと思いながら読み進めていたのですが

叔母の千舟さんの凛とした佇まいがかっこよくて、そして主人公の玲斗が素直でかわいくて、この二人のやりとりが楽しかった。玲斗の成長物語になっていたのがよかったです。おそらく映画化されると思いますが、私のイメージでは千舟さん=松たか子さんです。

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