荻原浩さんの短編集。第155回(2016年上期)直木賞受賞作です。
荻原浩さんを存じ上げなかったのですが、渡辺謙さん主演の若年性アルツハイマーを題材にした映画「明日の記憶」の原作者の方と知り、作風になるほど...と納得しました。何度も直木賞にノミネートされ、5回目にして受賞されたベテランの作家さんです。
本作は6編からなる短編集。それぞれの関連性はありませんが、どれも穏やかな筆致ながら、現代を生きる私たちにとって身近な問題や生きづらさがさりげなく織り込まれていて、読んでいて胸の苦しさを覚える作品もありました。
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6編の中で白眉だったのは、トップバッターを飾り、表題作でもある「海の見える理髪店」。海が目の前に見える高台の小さな家で、おやじさんがひとりひっそりとやっている床屋さん。かつて、ある大物俳優も彼の腕に惚れ込み、通っていたという伝説の理髪店です。
いつもは美容院に通っているデザイナーの僕は、ひょんなことからその店に行ってみようと思い立ち、予約を入れます。初めて訪れる床屋。熟練したおやじさんの腕にただ身を任せる僕に、おやじさんは自分の身の上をぽつりぽつりと話しはじめます...。
はじめは少々たいくつだな...と思いながら読んでいたのですが、ラストまで読んでがつんときました。登場人物はおやじさんと僕の2人で、しかもほとんどがおやじさんのひとり語りですが、短編らしい効果が生きていて、舞台劇にぴったりの作品だと思いました。脳内キャスティングで、吉田鋼太郎さんと妻夫木聡さんが思い浮かびました。^^
この作品の作家さんは、「明日の記憶」の原作の方なんですね!
私、「明日の記憶」は物凄く感動しました。涙ボロボロで、鼻を何度もかみながら観賞したのを思い出します。
きっと、淡々と、人生についてのあれこれを静かなタッチで作品にしていそうですね。
機会があったら読んでみたいです。
ごみつさんは、「明日の記憶」をご覧になっているのですね!
ごみつさんが感動したとうかがって、私も見てみたくなりました。
渡辺謙さんが原作にほれ込んで、映画化されたそうですね。
この短編集、記事にしておいてなんですが
切なくて、胸が苦しくなる作品が多かったです。
洋画だとわりとどんな設定でも受け入れられるのですが
現代の日本が舞台だと、どうしても身近な問題としてとらえてしまうからかもしれません。
でもどの作品にも作者の達観したような、優しい眼差しが感じられました。